私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第九章

第444話

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「これは……あたってほしくなかったけど」
「エミリアさん?」
「アウミは、成長しなかったね」
「え? ええ、栄養失調だったから健康に気をつけていたけど」
「……あの子、屍食鬼グーラだったのね」

ミリィさんが小さく呟いた。それに私とダイバは黙って頷くしかできない。持っていた人形から十歳と判断した。にもかかわらず六歳に満たない成長。奴隷商の元にいたため栄養失調だったのは仕方がない。奴隷を正しく扱ってきたセウルたちの奴隷商だって、軽い栄養失調にさせていたくらいだ。
私たちは昨日までの話し合いでそう結論がでた。信じたくないけど、それが真実ならどうしようもない。でも、それなら『温度を感じない』のだから生き残れたのだろう。……身体を鍛えていたノーマンたちが倒れるような過酷な場所だったのに。
ただ、悲しい魂を家族のもとへ返してあげたい。ノーマンたちも彷徨っているなら一緒に。

「六歳くらいにみえたアウミ、実際は保護されたときは十歳だったけど。あの子の弟が二歳で死んでる。もしかすると、あの子は五~六歳でときが止まっていたのかもしれない」
「十歳と二歳では弟と年が離れているなとは思ったけど、六歳と二歳ならそんなにおかしくはないわね」
「家族ともに死にかけたとして、そのときに肉体を求めていた女神にしてみればのかもしれない」

もしかすると、彼女以外死んでいた可能性もあるだろう。唯一生きていたアウミを助けたいと思ったのかもしれない。
それは女神にしか分からないことだ。

「そして、フルーツガーリック。あれは炭にすると『女神を追い払える』ことは火龍が教えてくれた。解毒デトックス効果があるんだって」
「アウミにしてみれば、どんな女神であっても切り離されたら自分の生命の終わりだってわかっていたのでしょうね。ここで家族のような人たちと出会えて、幸せな日々が戻ってきたのに……。離れたくなかったでしょうね」
「んー、ねえ。聞いていい?」
「どうしたの?」
「アウミはバラクルで記憶を消していなくなったのでしょう? なんで覚えてるの?」
「ああ、それは途中でやめたからよ。『忘れてほしくない』ってボロボロ泣きだして。飛び出していって、結局そのまま」

私の気持ちに気付いたのだろうか。私を膝抱っこしている白虎が私を抱きしめてくれる。
家族を亡くして、巡り巡って新たな家族を得たアウミ。帰る故郷を失って、それでも宿の一家と知りあえて家族を得た私。そしてアウミは記憶を消して去ろうとした。私はみんなの記憶を消さずに、私の記憶を消した。
どちらも同じだ『私を忘れてほしくない』という叫びに似た願いが。
だから、その孤独を埋めるために女神が私たちの中に入ったのだろうか。私は前ほど孤独を感じていない。魅了の女神が私の周りに集めてくれた人たちのおかげだ。

だから、今のアウミが心配だ。一緒に来てくれたノーマンたちと死別したのだから。本当の年齢が想像どおり六歳前後なら、心もそれくらいだろう。実の家族も、新しい家族バラクルも、仲間たちも失って女神以外に縋れない子を……パルクスの人たちはどう扱おうとしているのだろうか。そして女神もアウミをどう見ているのだろう……

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