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第九章
第443話
しおりを挟む火龍はノーマンたちの死を凍死といった。実はこれ、以前から問題になっていた。
元々ダンジョン都市は、火の神の眷属である騰蛇の管轄であり、騰蛇による空間魔法で広げられた『神に属する空間』に作られている。……この都市では、ほかの国や町などより気温が大きく違う。それをダンジョン都市に長くいると忘れてしまうのだ。
「その死体は衰弱の上での凍死? それとも飢え?」
「エミリア?」
「エミリアさん、どういうことですか?」
「魔物が絡んでる可能性もあるわよね」
「血や精力でも奪われたか?」
「生命力かもね」
ここで対応が分かれた。ノーマンを知っている側にしてみれば、ノーマンが簡単に死なないと思っている。ダイバやシーズル(&アゴール)と行動を共にできる、普通の人間なのに、だ。ただし守備隊の隊長と私服守備隊の隊長を兼任してきた。そんな男がただの凍死だとはどうしても思えなかった。
「火龍、アイツらの遺体は」
〈すでに朽ちておった〉
「ノーマンは人間なのに……」
「……朽ちるには早すぎる」
これが夏なら暑さを理由にできるだろう。しかしもうすぐ冬だ、朽ちにくくなる。魔物に食われた場合も考えられるが、火龍は間違いなく朽ちたといったのだ。
「エミリア、可能性は?」
「虫、微生物。そして……『虫による異常発生』」
「それが連中の計画か」
「虫は冬でも家屋の中で繁殖し続ける個体がいる。でもほとんどは春になると一斉に繁殖する。異常発生したまま越冬した虫が春になったとき、近くの町や村で隠れて増えた虫と同時に繁殖が始まったら……」
それこそ、雪解けと同時に虫の異常発生が始まる。
「冬が来る前に、いくつかの町や村が滅んでいるのか」
「虫だからね、魔物ではないから……滅ぶとは限らない」
「穀類や貯蔵庫が虫に荒らされて滅ぶ可能性はあるよ」
全員の目線が私に集中する。
「そうなったら、魔物がくるか、虫が大量発生するか」
「ただ、私たちには何もできない。国が違う。パルクスは自国の民を犠牲にしてでも叶えたい望みがある。その目的は……?」
「うん、私じゃない。そして……魅了の女神ではない」
「エミリア!」
「ダイバ、もう隠しごとは終わりだよ。ここにみんなが集められたってことは話す必要が出たってこと。メッシュ、ここの話で公開するか否かはメッシュが決めて。……もう覚悟を決めなきゃ」
私に集中した視線がそれる。そう、私ではない。魅了の女神でもない。もし私たちが狙いだったら、少なくともアゴールを連れていけたはず。でもアゴールが狙われたのはこの都市は特殊で、妊婦がいないから。……『失われし女神がはいる器』を求めただけだ。
「その器は、パルクスに行けばいくらでも見つかる」
そうなれば……アウミの生命もどうなるかわからない。
「エミリア?」
「彼らはコルスターナにある湿地帯。そこに女神に関するなにかがある。エリーさん、ムルコルスタ大陸にもあるでしょう? 『なぜか人の寄らない不思議な地』が」
「エリー、北の滅びた国の伝説よ」
私の言葉にミリィさんが補足するとエリーさんが小さく頷いた。
「ペリジアーノ大陸にもそんな地がある」
コルデさんもそう追加情報をだす。きっとほかにも見つかるだろう。
「ムルコルスタ大陸では、すでに虫や魔物の大量襲撃が起きた。しかしそれは北の国ではない」
「まだこれからって可能性もあるのね」
アルマンさんの言葉にエリーさんの表情が険しくなった。
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