私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第九章

第431話

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「そういえば、エリーたちと勉強している子供たちの中に、その事故で孤児になった子たちがいるらしいぞ」
「え? アルマン、それってほんと?」
「あの子たち、悲しみを乗り越えたのか」

ミリィさんもダイバも驚きの声をあげる。元々、冒険者になった時点で覚悟はしていたらしいが……

「ああ。『兄ちゃんが両親たちと死んだんだ。でも、こうして兄ちゃんたちを教訓にして二度と同じ死に方をする冒険者がいなくなるなら、兄ちゃんたちが死んだことにも意味があったんだ。それに、間違いなく結界石の使い方で兄ちゃんたちの生きて死んだ話がでる。兄ちゃんたちはこれからもずっとんだ。肉体をなくしたけど、生きた証は残るんだ。兄ちゃんたちは、これからも、僕たちが死んでも生き続けて誰かを守るんだ』。その言葉が、エリーの心に突きささったようだ」

その言葉は記録用の魔石に残されていた。

「このことを仲間たちにも教えたい」

そう言ったら記録を撮ることを許してくれたそうだ。真っ直ぐ強い意志を持った目で魔石に向かって話したその言葉は、国も大陸をも越えてを各地へと広がっていく。属性をもった結界石とその誕生秘話と共に、残された遺族の思いをのせて。

「いま、エリーは似た状況に立った子と出会った。エミリアちゃん、エリーは同じエルフ族の仲間を失ったんだよ。そのうち夫婦めおとになるだろうとも話していたんだ。二人は長寿で、今すぐじゃなくていいとお互い思っていた。ただ、二人が結ばれたら、パーティーは合併するはずだった」
「エリーのワガママだったんだな。それが愛する人を永遠に喪い、ひとつのパーティを壊滅させた」

アルマンさんの言葉にダイバの言葉が重く突きささった。静かになった中で、ダイバがポツリといった。

「エリーはもっと周りを見たほうがいい。喪われた生命のせいで物事を正しく見られない以上、第二・第三の悲劇が起きる。事実を隠して前へ進む努力を怠れば、あの子たちみたいに顔を上げて生きられなくなる。オヤジたちのパーティが、無条件で支えてくれている事実を受け入れれば、一緒に考えられる仲間がいると気付くキッカケになる。ここにいるエミリアみたいに、な」

ダイバが私の頭を撫でてくる。私がこうして少しずつ大事な話ができるようになったのは、ダイバが根気よくそばにいてくれたからだ。ミリィさんが私を探して、何年も旅をしてたどり着いてくれたからだ。

「一番は、ピピンたちが私を見捨てずにいてくれたからだよ。何度も倒れて、何日も眠り続けて、目覚めても身体がダルくて動かせない私を支えて世話をしてくれて。ピピンなんて、人間わたしを知るために書架で本を読んで知識を得た。そして私を支えるために、三人は魔人や獣人に進化してくれた。今は魂を定着させるためにここにいるけど、それだってダンジョンに入ったら敵によって人化じんかを解く可能性があるから。……定着前に人化を解いたら、二度と人化できない可能性もある。ダンジョンにはいりたいという私のワガママで、彼らの生命を賭けた進化を無にしたくない」
「エミリアちゃんのその優しさが、三人にも受け継がれている。もちろん妖精たちにも。いやあ、うちの末っ子は兄妹の中で一番優しい子に育った。は嬉しいぞ」
「オヤジの血が一滴も入ってないからだろ」
「なーんか言ったか? 愚息」
「本当のことだろ、愚父」
「似たもの親子ね」

手をガッシリと掴んで睨み合うコルデさんとダイバ。二人をスッパーンッと触手ムチ一発で沈めたリリンの言葉に、私たちは苦笑するしかなかった。
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