408 / 789
第九章
第421話
しおりを挟む「ですが、エミリアさん。今でも罰として去勢は行われているのでしょう? その割にその手の犯罪が減らないような……」
「ああ、それなら数ヶ月前に理由が判明した」
ダイバの言葉に全員の視線がダイバに集中した。
「元々は『エミリアに手を出した連中の末路』が知られていない理由がわからなかったんだ。そうしたら、情報収集で王都に出てる情報部の連中が、『エミリアに手をだした貴族たちの末路の情報が正式に発表されていない』といってきた」
ある貴族が罪を犯して罰を受けた。今は水路工事で二十年の労働の罰を受けている。王都での認識はその程度だ。
「それで正式に調査を頼んだ。その結果、大陸法で罰を受けている貴族や商人たちは、その違法行為を公開されずにいた。それで情報部は大陸法違反による罰の特集記事を発表した。貴族や商人たちの実名を公表して、いつ罪を犯して罰を受けたのか。さらに商人・職人・冒険者は『同職に対して迷惑をかけるべからず』というギルドの規約を破ったことで、罰が上乗せされたこと。そして実名と罪名、労働や罰金に関するリストが公表された」
「それで、二年前にギルドはルールを変更した。たとえば私に迷惑をかけたら、迷惑をかけた本人が私に慰謝料を支払う。そして私の所属するギルドにも同額の慰謝料を支払う。迷惑をかけた者が所属するギルドは、私と私が所属するギルドに慰謝料を支払う。その代わり、私たちに慰謝料を支払ったギルドは、その慰謝料を迷惑をかけた本人に全額請求できる」
「それは私たちの国でも変更になったわ。何でも罰則が甘いために罪を重ねるメンバーがいる。罰則を重くすることで彼らを抑制したい、との理由だった」
「その通りだ。自分たちのギルドに所属するメンバーを信用するならその提案に乗れるだろう? 運が良ければ違反者とギルドから慰謝料がもらえる。ただし、支払う側になる危険性もある」
「ああ、届いたのはそんな内容だった」
「いまの都長が商業ギルドのマスターだ。内容も彼が草案をつくって全国のギルドに送った」
それは今、各国のギルドで容認されている。ポンタくんのギルドが慰謝料で私の借金を完済しただけでなく、大変潤っているという前例がある。
「欲深いよねえ」
「前例があるからな」
「支払う側に回る、とは考えないんだね」
「慰謝料を支払っても、当事者に請求できるって考えてるからだろ?」
「穴があるのにね」
「欲で目が眩んでいるからな」
「え⁉︎ どういうこと?」
私とダイバの言葉にエリーさんが驚きの声をあげる。
「同時に複数人が違反したら、慰謝料が膨大になるよ。実際に冒険者ギルドで、十三人が同時に規則違反して支払いを渋ったんだ。渋ってたら、十三人分の延滞金なるものがスキップしてギルドに押し寄せて住み着いたんだ。気がついたら、延滞金たちは丸々と肥えちゃって……本来支払う額の五倍! それが十三人分!」
「それも延滞金はギルドの負債、つまり当事者十三人に請求はできなかった。エミリアと所属ギルドに支払いを渋った。エミリアはトラブルをさけて、すべて他国のギルド所属に変更したから、泣き落としはできずに借金はふくらんだ」
ダイバの説明にエリーさんは目を丸くした。他国にいる私の窓口はポンタくんが担ってくれている。慰謝料の督促もすべてポンタくんがおこなう。その代わり、手数料を一割受け取っているはず。
ポンタくんから冒険者ギルドに、そのときのお金がはいっていたのだろう。
「ポンタが『エミリアちゃん関連の規約違反で慰謝料が届いている』と寄越したあの金がそうなのね」
「ケタ外れですよね」
「ええ、十三人分で延滞金付き。……それでも異常な金額だったわ」
「さっさと支払っていれば、少なくてよかったのにね」
そうすれば、身を滅ぼすことはなかっただろう。
78
お気に入りに追加
8,060
あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います
菜花
ファンタジー
ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。