私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第九章

第419話

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「そうかそうか。それはどっちも今は我慢だなあ」

そう言って私と隣に座る白虎の頭を撫でるコルデさん。

「ん? 耳は本物ではないな」
「あれ? 気がついた?」
「フム、たしかに白虎の耳らしく動いているが、動物の特性らしい動きではない」

さすがに冒険者なだけあって、小さな耳の動きにも注意がいくようだ。そのことにダイバとアゴールも驚いたのか耳を傾けている。

「その通りです。完全に人型になることはできますが、それを悪事に使ってしまう獣人がいないとは限りません。そのため、ひと目で獣人だとわかる目印が必要になります」
「白虎は獣人だから、かわいいお耳とフサフサ尻尾~♪」

むぎゅーっと白虎の尻尾を抱き締めると、また顔をぽふぽふと叩いて腕からすり抜ける。この尻尾も実物ではない。『実体化した幻影』なのだ。幻影だからこそ、尻尾穴は必要がない。

「ホントの尻尾だったらもっと大きいよね~」

実体の大きな白虎の尻尾の下には、私がすっぽり隠れられる。ダイバも、たぶんミリィさんやルーバーでも隠れられる。私が背中の上でゴロリと寝転がることができる大きさだからね。

「耳だけでは特徴が掴めないこともあるので尻尾も実体化しています」
「でも、魔人は変わんないよね。翼種よくしゅの魔人って羽を隠しているし。ピピンはイケメンだし、リリンは美女だし」
「うふふふふ」
「お誉めいただき光栄です」

リリンの妖艶さに、すでに骨抜きになった者たちのその後は有名だ。

「エミリア、リリンを国に放り込んだら国王たちを籠絡して落とせるんじゃないか?」
「甘いよ、ダイバ。間違いなく、物理的に崩落させるよ」

リリンが焼け落ちる火の元で、この世のものと思えないくらい美しい微笑みで、金色に輝く触手ムチをさばいている姿が思い浮かんだ。



私たちは二ヶ月間家でおとなしくすることにした。無理をして三人が困る状態に陥るくらいなら、私たちも休憩にしようと決まったのだ。

《 だからって、ゴロゴロするのはナシよ! 》
「わかった、わかった。じゃあ、たまった素材で調合や錬金をしよう」
《 料理もしよう 》
「じゃあ、たらこのディップと明太子ディップを作ろうか」
《 やったー! 》

その数日後に料理の日として色んな料理やお菓子を作った。そして妖精たちは明太子ディップに悶絶した。……まあ、わかっていたことだけど。
フレンチポテトなどをつけてパクッ。パンに塗ってトーストしてパクッ。

「だ~か~ら~。たらこのディップにすればいいじゃない」
《 でも食べてみたいんだもん 》

子供が、ワサビやカラシを食べたがる様子ににている。

「バカは食べなきゃわからない」
《 ピピン! 》

あらら。珍しく口が悪いピピン。そんなピピンが妖精たちに冷たい視線を向ける。

「みんなが口にした衝撃が、ほかの妖精たちに影響していないと?」
「ん? どういうこと?」

妖精たちは覚えたことを仲間に記憶させる能力がある。

「あれ? ねえ、みんな。いまみんなが悶絶した刺激が、ほかの妖精たちにも感染させてない?」
《 あ! 》
「今までは問題なかったですが、妖精たちが住み着いた以上、刺激に悶えて気絶している可能性があると思います」

ありゃりゃ。だから妖精たちをバカといったんだ。
妖精の中でも明太子ディップの刺激が平気だった者もいた。みんながみんな同じ嗜好ではないらしい。

「そういえば、みんなはお酒を嗜むけど、匂いがダメだという妖精もいるよね」
「通常でしたら、味覚など共有しないらしいです。ですが、悶絶するような刺激の場合、危険回避のために仲間に伝達するようです」
「じゃあ、どうしてわかったの?」
「テントからでて窓の外を確認しました。人は妖精たちの様子がわからないため気付きませんでしたが、刺激を受けてあちこちで倒れていました。リリンがいないでしょう? 最近になって、雑草など生えてきたため、リリンが植物を通して倒れた妖精たちをまとめて農園に投げ込んでいます」
「終わりました。ケガをした妖精たちもいましたが回復済みです」

リリンがテントに帰ってきた。彼女の報告に妖精たちがシュンとなる。

「お疲れさま、リリン。ねえ、ふうちゃんもいないんだけど」
「風の妖精は植物の届かない屋根などで倒れてる妖精たちを回収にいきました」
「風の妖精は最初っから、たらこのディップだったもんね」

風の妖精はそういう仲間を思いやる優しさがあるから、ほかの妖精たちに影響の出ないダンジョンの中で食べる。
同じく、水の妖精とくらやみの妖精たちも口にしない。妖精たちも個性が育ってきているのだ。
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