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第九章
第406話
しおりを挟む〈ダイバよ、お主もエミリアに攻撃力を渡すことができるぞ〉
火龍の言葉に、一斉にダイバに視線が集中した。
「へ? 俺?」
〈正確には竜人なら誰もがエミリアに攻撃力を渡せるのじゃ〉
妖精たちの同調術と同じように、ダイバたち竜人とも同調術ができる。それが本来の聖魔師の能力らしい。
〈相手が聖でも魔でも、自分以外の者と心を通わせることができる。それが聖魔師という者じゃ。エミリア、無くした記憶の中に『竜人を助けた』記録はあるか?〉
「竜人かどうかわかんないけど……貴石の中に暗竜の子が閉じ込められてて、精霊王さんが親御さんに返してくれた」
「そんなことあったのか?」
「うん、覚えてないけど。女王アリさんの非常食に用意されてた」
〈多分そのことじゃな。暗竜が『多大な恩がある』といっておった〉
情けは人の為ならず。その言葉どおり、巡り巡って私のためになる日がくるようだ。
「ねえ、同族を助けたら誉められるの?」
〈暗竜は同族の中でも一番少ない種族だ。その次が光竜だな〉
「……ねえ、彼らも竜族?」
〈そうじゃ。ただし、エミリアのいうわるい子じゃない〉
「じゃあ、劣化版?」
〈そう、そっちじゃ〉
「お前ら。その使い分け、何とかしろよ」
〈今はその方がわかりやすいじゃろ?〉
「じゃろじゃろ?」
私が火龍のマネをすると呆れたように息を吐いた。
「わかった、わかった。で、火龍。この世界に二種類しか竜人がいないといっていたな。しかし、これでは三種族になるぞ」
〈理由は簡単じゃ。劣化版の一族から竜人となり、里を去った者がわるい子じゃ〉
「つまり、竜になってるときに一度や二度は子を作った?」
〈そうじゃ。それも竜から竜人になれたとしても、魔素の吸収で竜に戻ってしまう〉
…………なんか嫌な予感がする。
ダイバも同じ点に気付いたのだろう。固い表情で私の顔を見てきた。
「火龍……途中で竜に戻った奴らはどうした?」
〈元の里に戻らず、種族が混在する『竜の里』を作っておる〉
「ねえ、そいつらって『ダイバがいた国を襲った』ことがある?」
〈ダイバの国かは知らぬが、愚かな人間に竜人の里を襲わせては竜人たちを奴隷化させている〉
ドドーンッッッ!!! という大きな音を立てて、私たちを中心にして半径百メートル以上のクレーターが完成した。
「スマン。我を忘れた」
ダイバが謝罪する。その頭を妖精たちが取り囲んでいる。
《 ダイバのおバカさん 》
ペチン
《 ダイバの大バカさん 》
ペチン
《 ダイバは大バカさん 》
ペチン
《 その程度で我を忘れるなんて、この軟弱者さん 》
ペチン
《 校庭五百周の刑ですの 》
ペチン
《 腰に紐をくくりつけてタイヤを引っ張りなさい 》
「ここにはタイヤがないよ」
《 じゃあ、大きなソリに私たちとエミリアと大きな白虎を乗っけて走りなさい 》
ペチン
みんなに頭を叩かれていたダイバ。パァーッと妖精たちが飛び去ると、隣で見守っていた私をみてきた。
「おい、エミリア」
「なに?」
「……コイツら本気か?」
「たぶん。すでにソリなら後ろに用意されてる」
「……うぉお! なんだ、それは‼︎」
「私のテントの庭で遊ぶときのソリ」
すでにソリには白虎をはじめとして全員が座っている。
「わーい、私も~!」
「あー、もう!!! ちゃんと掴まってろ。エミリア、落ちるんじゃねーぞ!」
ダイバはソリにつけられたロープを腰にくくりつけると「をおおおおおおおおおお!!!」と叫んで勢いよく駆け出した。
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