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第九章
第403話
しおりを挟む「なにこれ。あのニンニクを焼くの?」
〈そうじゃ。コンロの上で皮のまま焼いて黒くするんじゃよ。真っ黒に焼いたら皮をむいて中身を使うのじゃ〉
「コンロの上……そっか、焼き網! あれに乗せて黒焼きにして……ねえ、どうして灰になってるの?」
〈おお、それは我が水に溶かして飲んでおるからじゃよ〉
「じゃあ、どんな形でもいいってこと?」
私の疑問に火龍は頷く。
「アゴールにどれだけ食べせればいい?」
〈月に一粒〉
《 一粒ってこれ? このカケラのこと? 》
火龍に、私がだしたフルーツガーリックをみせる暗の妖精。その中から一欠片を指差して確認する。
〈そうじゃ、そうじゃ。それだけじゃ〉
《 エミリア! 効果は? 赤ちゃんに影響ない⁉︎ 》
アゴールに影響がなくても赤ちゃんに影響があるなら使わない!
そう声をそろえる妖精たちと、身体を固くしたダイバ。
「これは普通の……あれ? 焼いた方って……」
「エミリア? なんかあったか?」
私の言葉にダイバの緊張を含んだ声が続く。私が気になった一文があったのだ。
「ダイバ、これ解毒剤だって」
一瞬、静かになる空間。
《 解毒? ねえ、エミリア。本当に解毒剤? 》
「うん、『普通の毒から空気による毒に感染症の毒。そして神の解除にも効く』ってあるの」
「…………神の存在も毒扱いか?」
「アラクネにしてみたら十分毒だよね」
「ああ、確かに劇薬だな」
「『さわるな、キケン!』だよね」
《 『ちかよるな、キケン!』だよね 》
《 『死にたくなければ、くるな!』だね 》
《 『死にたければ、こい!』だよ 》
《 えっとー、じゃあ『度胸試しに、寄ってみな!』 》
完全に神の権威失墜状態。しかし、この大陸は神が見捨てた地。見捨てておいて崇めてもらおうというのは大間違い。
《 神様より、私たちの方が崇められているよね 》
「みんなよりピピンとリリンの方が崇められていると思うよ?」
私の言葉に、ピピンとリリンが私のヒザの上で胸を張り、妖精たちは二人に手を合わせた。
「でも、赤ちゃんから引き離しても、また誰かにくっつかない?」
〈エミリア、それはどこで育てておる?〉
「ダンジョン都市の中だよ」
〈ガーリックとして作っていれば、臭いで追い払える〉
「まるでドラキュラみたい」
〈ドラキュラ?〉
不思議そうに聞き返す火龍に頷くと、妖精たちが火龍の顔の前までとんでいった。
《 うん、こうやって牙が生えててー 》
《 こーんな風に首筋に突き立てて、血をちゅーちゅー吸ってー 》
《 棺がベッドで、古いお屋敷に住んでるの 》
《 お日様にあたると灰になっちゃうの 》
《 ニンニクと十字架も嫌いなんだよ 》
《 あとね、聖水も。身体が焼けちゃうんだよ 》
《 棺に寝てるところを、胸に杭を突き刺したら死んじゃうのー 》
「いやいや。どんな生き物でも、胸に杭を突き刺されたら死ぬぞ」
《 でも、死んだら灰になるんだよ 》
《 怖いよねー 》
《 うん、怖かった 》
ダイバのツッコミも、妖精たちはスルー。モノクロのその映画は妖精たちにとって恐怖でしかなかったようだ。
「私……ピピンとリリンのお説教の方が怖いと思うけど」
「それ以上に『暴走するアゴール』が怖いと思うぞ」
「大丈夫。アゴールはピピンとリリンが止められるから」
〈…………そうか、『スライム最強説』が噂になっておるが、ピピンとリリンのことか。フム、それなら納得じゃ〉
どこか納得したようにウンウンと頷く火龍。
……その伝説、一体どこで広がっているんだろ。
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