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第八章
第359話
しおりを挟む「ずる~い!」
「仕方がないだろ。連中の身元が判明するまでは」
「だって『国境を越えてきた悪いヤツ』だよ」
「ああ、だから交渉に使うんだ」
「ず~る~い~!」
「エミリア、今回は俺の指示に従うって約束だろう?」
「やくそく~」
「ああ、ちゃんと覚えている」
私が約束に掲げたのは、カーバンクルたち宝石の聖獣たちをダンジョン都市内の許可された場所で自由にさせる、というものだ。主に私の農園と果樹園、そして隣のバラクル専用の農園。元々そのつもりで不可視化の魔導具をその範囲に設置させていた。
それを『中で盗みをしていても外からわからない』と考えたバカが現れた。
ちなみに妖精たちが捕まえた連中を埋めるのは私の農園の隣の空き地。周囲では『アホ面花畑脳園』と呼ばれている。お花畑の脳をもじった、のもあるが……ここには見事な花を頭に咲かせた犯罪者が埋まるのだ。
《 檻じゃないから本当のお花は咲かないけど 》
《 お花を飾ってあげたんだ 》
これは『髪の毛を花畑にした』ように見せているのだ。
髪の毛を何本かまとめて立てて固めて緑色に塗り、毛先は花びらのように広げてピンク色や黄色に塗っている。五分刈りのように短い髪は緑色に塗り、先端に濃い紫色などを塗って小さな花を表現している。
「……すでに芸術だよな」
「だんだん上手くなってるよね」
何をしても元には戻らない。妖精たちには遊びだけど、ステータスには『妖精の罰』という表示がされている。
そして、最近になって『もしかして関わるだけでもヤバくね?』とようやく気付いた。……そして『職人ギルドマスターの破滅』が詳細に知られ、その直前に起きた農園の不法侵入も大々的に知られた上に罰のすべてが公開された。
「え? 慰謝料? あ、聖魔師だから大陸法違反? へ? 大陸法違反の慰謝料が白大金貨五枚で実刑二十年!」
「職人で商人で冒険者だって⁉︎ 接触しただけでギルドに違反するじゃないか!」
「所属するギルドにも同額の慰謝料を支払うって……」
「俺が所属するギルドからも両者に慰謝料が支払われるだと?」
「じゃあなんだ? 俺みたいに冒険者と職人をしていれば二倍の慰謝料を聖魔師に支払って、冒険者ギルドと職人ギルドにも慰謝料を支払うって……?」
「お前の場合、それで四倍の慰謝料じゃないか」
「それに、お前が所属している職人ギルドと冒険者ギルドから慰謝料を支払うんだろ」
「ギルドが支払った慰謝料もお前に請求がくるんだぜ」
「そいつに、大陸法違反の白大金貨五枚と二十年の実刑だ」
「「「…………詰んだな」」」
自分たちの身に置き換えたことで現実がハッキリと見えたらしい。
それまで『上手くいけば聖魔師のおこぼれがもらえる』という考えが主流だったらしい。
「聖魔師がダメなら職人のおこぼれをもらおう、という連中もいたんですよ」
「そんな私利私欲で近寄ったら膨大な慰謝料を払って実刑。そんな真実が広がらないのも当然だな。当事者は実刑で肉体労働中なんだから」
そして、やっと平和になったため、愛らしいカーバンクルたちを一部の場所で自由にさせてあげたいと強く望まれた。
望んだのは、奴隷の報告会でカーバンクルと接触する代表たち。……正確には、カーバンクルと触れ合うためにつまらない奴隷報告会に欠かさず参加している代表たちと、その愛らしい姿を見てみたい人たちからだ。
「カーバンクルの場合、私が持ってる宝石の聖獣だからね。捕まえようとしても宝石が私の手元にあるからムリ。一定の距離から離れないから連れていくこともできないよ」
「それに以前より妖精たちの目がある。……水の妖精がさらわれた事件以降、警備は厳しくなっているし、アラクネや騰蛇、キマイラたちという守護者もいる」
「騰蛇はどこにでもでてくるからね。その代わり悪意を持っている者だけを取り込んで地中に連れ戻れる。ほかの人や建物に影響はでない」
「影響があるなら、そもそも許可しない」
「だったら住むこと自体許していない」
騰蛇は存在が公になる前から深夜に地上に現れては悪い者をパックンしてきた。
「だからさあ、あの連中も騰蛇にパックンさせようよ~」
「それとこれとは違う。アイツらは今はダメだ。せめて交渉決裂したらな」
「じゃあさ、取り返そうと国境を越えて来たら?」
「そうだなぁ……。どうせ深夜だろ? 深夜では俺たち気付かないよな」
「そうですね。寝ているときに何が起きても……それも国境を越えるという犯罪を犯していたとしても。それでみえない何かが何かをしたとしても。エミリアさんだって、みえない存在が何かしてもわかりませんよね」
「うん、だって私は魔法剣士だもん♪」
「そうだな。魔法剣士でも結界の中で深夜寝ているときに何か起きてもわからないよな」
ダイバの意図に気付いたシーズルのパスに私がノる。それにダイバが私の頭を撫でながらいった言葉に返事をするように小さく地面が揺れた。
「今はそれで我慢しろ」
ダイバが言葉を向けた相手は、私かそれとも騰蛇か。
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