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第八章
第347話
しおりを挟む「最近、エミリアに会わないな」
「またダンジョンの中か?」
「一度入りだすとハシゴするからなぁ」
ダンジョンに入っているかどうかは、個人情報だから関所で聞いても教えてはもらえない。ただ、エミリアが何ヶ月もダンジョンに入っているのはよくあることだ。
「新しい素材を見つけたから、その場で調合や錬金を試していた」
それもいつものことで、好奇心旺盛なエミリアには「帰ってからにしろよ」という声は届かない。……まあ、しっかり者のピピンを筆頭にエミリアに対して過保護な聖魔たちが揃っているため大丈夫だろう。
そんな会話がここバラクルとミリィとルーバーの鉄板焼き屋、つまりエミリアの情報が入りやすい二ヶ所で毎日何度もあがる話題だ。
「おい、ノーマン。エミリアはどうしてるか知らないのか?」
「ああ、ダイバも今どこで何をしているかわからんらしい」
「二人が把握していないんだったら俺たちじゃわからねえな」
そう、『今どこで何をしているか』は俺たちはわからない。だが、『どこへ何しにいったか』は知っている。
「何バカなことを言ってるんだ!」
話を聞いたときに俺はそういって止めようとした。しかし、エミリアがそんなことを素直に聞くはずがない。俺に話した時点ですでに決定事項だ。
「ダイバ! お前も止めろよ」
「コイツが言って止まるんだったら押さえつけてでも止める。しかし、これは騰蛇の意思でもあるんだ」
「だとしても……‼︎」
「はぁー」と大きく息を吐き出したダイバは「俺たちが何を言っても無理なんだ」と諦めににた声を出して、俺は『魅了の女神の信者騒動』の裏話を聞かされた。
たしかに情報部の見習いが起こした騒ぎと、彼女の母親が起こした事件なら知っている。エミリアの周囲の警備を強化するよう指示が出ていたからだ。信者たちの矛先は情報部に向けられていたため、エミリアに被害はなかったが。
そして、危険物の話を聞いた。しかし、納得がいかない。
「騰蛇とアラクネが回収できるなら、エミリアが行く必要はないだろう」
「これが人の問題である以上、騰蛇とアラクネには手出しできない。それに……」
「いや、だったら……」
俺たちの言い合いはどこまでも続いた。仕方がないだろう。何故エミリアだけがいいように使われないといけないんだ。
「ノーマン」
エミリアの声に俺たちは口を閉じて彼女を見る。そんな俺たちをエミリアは微笑んでいた。
「ノーマン、これは私のためでもあるの。コバルトが人の手にあり、それを誰かが押収してもいくつか横領されてしまうかもしれない。取りこぼしだってありえる。妖精たちの話ではこの大陸では簡単に咲かないアヘン芥子だけど、研究に使われているかもしれないし。普通に危険物とは知らずに咲かせている可能性だってある。……その可能性が取り除かれたことを自分の目で確認したいの」
それに、と言ってエミリアの笑みが深くなる。
「コバルトもアヘン芥子も私がもらえるんだ~」
「……これだよ」
エミリアの楽しそうな声に、力の抜けたダイバの声が漏れた。
エミリアはひと月以内に戻ると約束していった。奴隷たちの賃金を支払う必要があるからだ。
そして今回は誰にも不在をバレるわけにはいかない。危険物を回収しに行くのだ。妖精たちと同調術を使って、妖精の目で確認してからアラクネの糸で回収していく。そうすればエミリアに不法侵入などの罪はつかないらしい。しかし、疑われる可能性は大きい。
そのため、エミリアは家の中からアラクネの糸で騰蛇のところへ向かい、騰蛇の力でコバルトやアヘン芥子のある町や村の下まで移動する。この大陸中が対象なのだ。地上を一つずつ回っていたら何年もかかるだろう。
「ここに帰ったら、ちゃんとバラクルへご飯を食べに行くよ」
その約束を信じて、十五日を過ぎた頃から毎日のようにバラクルに足を向けている。
エミリアが笑顔でバラクルに現れたのは二十一日目の昼間だった。
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