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第八章
第342話
しおりを挟むシルキーが部屋の一角に集め、妖精たちが追加した『危険物につき取扱注意』がまとめられ、品物のチェックを受けたあとに安全な物だけを情報部が預かると、機織り女が金糸で全部回収していった。
「一度見たけど、なんなんだ、あれ?」
「こーんなの」
そういいながら、手のひらを上に向けて金色の糸を取り出す。それにダイバ以外も興味をもったのか近寄って糸を触ったりする。
「おいおい、何だよこれは」
「魔力を撚って作った糸なんだけど……」
「「「だけど?」」」
「私の場合、やっとここまで出来るようになったんだ。アラクネなんて、さっきみたいに細くてしなやかな金糸を一度に何十本もだせるの」
「エミリアさん、それはどのようなことに使われるのですか?」
端から解けて金の粒子となって消えていく私が作った魔力の糸。それを手にしながらシルキーが興味津々という表情で聞いてくる。
「私の糸ではできないけど、傷口を縫合したりって治療に使えるよ」
回復魔法が苦手な人でも、魔力を糸にすることで傷口を塞ぐ治療に使える。それは緊急時に重宝されるだろう。
「それはすごいですね!」
「回復魔法が苦手っていうのは多いからな。それがこれで対処できるなら、事故が起きたときに沢山のケガ人が治療を待つ間に止血で使えるぞ」
みんなが治療の明るい未来を夢見ているようだ。
従来の回復魔法は、症状を確認してから魔法を使う。どんな傷口もまとめて回復させられるのは、私を含めて一部だけだ。私の場合は鑑定でどんな状態かわかるから、というのもある。治療師たちも、鑑定を使って症状を確認してから骨折や切り傷などの状態にわけて魔法を使う。体内の傷口を単純に塞いでも、癒着させてしまう可能性があるからだ。私は人間なら内臓や骨の位置が日本にいたときに骨格標本や図解などで見てたから知識として持っている。
この世界には『丸見えメガネ』という魔導具がある。ただし治療院用。それで病気や怪我の状態が見える……メガネ式のレントゲンに近いものだ。ただ、値段が高いのもあるが内臓がリアルすぎて直視できる人が少ないため出回らないそうだ。
「そして、アラクネは機織りに使ってる」
「えええ!」
「どうしてですか!」
「だってアラクネは機織りがしたいからだもん」
もちろん、女神の腹いせで蜘蛛にされたのが大きいが。その糸で機織りをして様々な物を作っている。
「ほら、みてみて~」
「また、お前はそんな物をだす……」
私がカバンから虹色に輝くストールを取り出すと、ダイバに呆れられた。これをバラクルで取り出したときの騒ぎを思い出したのだろう。
「これはいったい……」
「アラクネが織ってくれたの。軽いんだけど、ちゃんと衝撃から身を守ってくれるの」
「これをどこかで……」
メッシュがストールに触れていたが、少しすると勢いよく顔を上げた。
「エミリアさん、これはエミリアさんの奴隷が着ている服じゃないですか⁉︎」
「あた~り」
手をパチパチ叩くと「スーキィが以前エミリアさんの奴隷たちを取材させていただいたときに着ていた服に似ていると気付いて、教えてもらいました」と朱色の髪を恥ずかしそうに搔く。
「ついでに言うとね、ここに住む妖精たちが着ている服もアラクネ製だよ。これで、契約していない妖精たちが強い風で簡単に消えることもなくなったんだ」
そのため、今まで隠れ住んでいた妖精たちが表に出てくるようになった。
「そのぶん、妖精たちによるイタズラ被害が多くなったようだが?」
「えー、私と契約していない妖精たちのことまではし~らない」
「じゃあ、誰に苦情を言えばいい?」
「えー、騰蛇か、神獣たち?」
「人間代表は?」
「さあー?」
そういうとダイバが疲れたように息を吐き出して、みんなからクスクスと笑われた。
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