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第八章
第334話
しおりを挟むシルキーは冷凍された。
彼女の魅了に危険性があると判断されたわけでも、魅了を悪用したわけでも、そのことが原因で罰を受けたわけでもない。表向き、情報部は正規職員ではないことを理由に厳重注意処分で家に帰された。しかし、家に帰った娘から事情を聞いた母親に氷漬けにされた。バカな娘に怒ってお仕置きを与えたわけではない。これ以上バカなことをしたり余計なことを漏らさないように、との理由らしい。
シルキーは死んでいない。帰される前に手の甲に押された紋が起動して仮死になっただけだ。生命に関わる危機に一度だけ仮死状態となるのだ。ただ、彼女は母に殺されかけたショックで心が折れてしまい、母親が娘の生命を奪ってでも守りたかった情報を情報収集管理課に渡した。
シルキーたちは、ある女神を信仰している一族だった。その女神は『魅了の女神』。その信仰心からか、魅了を加護として受けたのか。本人の自覚もなく魅了を垂れ流しにしてきたらしい。
「自分でコントロールできないの?」
「ごめんなさい。仕方がわかりません」
謝罪したいと言われて会ったときに、シルキーは椅子から立ち上がり「記者として間違っていました」と深々と頭を下げて謝罪してくれた。元々記者になりたかったのは、自身が魅了を使える不思議を追求するためだった。
父親たちは魅了が使えなかった。そして母親は魅了の加護が弱ったため、父親から愛想を尽かされて追い出されることになったそうだ。
「私にわかったのは、母方の一族は魅了の女神を信仰しています。そのためか、私たちは非表示の加護を持っていて、どんな場所でも魅了が使えます」
ただ、それが生まれたときから当たり前だったため、ダンジョン都市にきて、はじめて魅了が効かなかったときはショックだった。
「それと同時に、今までの日常が異常だったと気付きました」
「でも、感覚がマヒしているから、今まで許されてきたことが許されない事実を受け入れられなかったんでしょ?」
「はい。あのとき周りから指摘されて、初めて魅了が不正行為だと知りました」
そう、魅了は違法で努力で身につけた人心掌握術は適法。言葉巧みに自らの意思で動いてもらったとしても、それが異性の場合、籠絡と見做されれば違法になる。使い方次第では危険物扱いになる。それは包丁やハサミでも同じだ。
「魅了の女神信仰……か」
「はい。あの、私の部屋に女神像があります。これくらいの大きさの……」
そういってシルキーは両手を上下に開く。その開いた空間からだいたい十五センチくらいの高さと思われる。彼女の家は母親が彼女に放った氷魔法で破壊された。現場検証後に状態回復の魔法で修復された。ただ、賃貸だったため『事件を起こそうとした』として即時退去になり、荷物は情報部の収納庫に預けられている。
庁舎内のため外部者が入ることもできない。それで、何か分が悪い人……たぶん魅了の女神信仰の連中と思われるが、「母親に預けていた物を返してもらわないと困る」という人が何人もきたらしい。
「残念ですが、母親は殺人未遂で捕まった以上、どのような物であっても証拠となります。もし、あなたの言葉がウソであるなら、あなたは窃盗と虚偽、証拠隠滅で重罪になりますよ。どうしてもと仰るなら、被害者が回復してからにしてください。氷魔法で仮死状態になりましたから、回復まで時間かかると思います。ああ、治療院にいっても数日は面会できませんよ」
さすがに情報部にニュースになりそうなネタを提供するわけにはいかず、大人しく引き下がったらしい。
残念ながら、妖精たちが目をつけてくっついていき、部屋を荒らしまくってきたそうだ。妖精たちにとってはイタズラの範疇だったが、やられた方にしてみれば溜まったもんじゃない。下手に逃げ出そうとしても目をつけられるだけ。
昨年から、ダンジョン都市に棲む妖精たちは神々しい仏像を目にして以降、信仰を神様から仏様に鞍替えしている。それが許されている時点で、この世界の信仰が神だけではない証明だ。特にこの大陸は神が見捨てた場所だ。だったら、見捨てられた人たちが神を見捨てて別の偶像に縋ってもおかしくはない。
……それなのに女神を信仰する一族がいる。そして、女神の加護を受けている。
ほかの神なら問題ないだろう。しかし魅了の女神という点で私と妖精たちは引っかかった。
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