私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第八章

第330話

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七メートルの大きさになっているジズは、境界線に阻まれて入れない男を観察するように見つめると、右の翼を動かして一薙ぎした。すると、男の背後から大量の黒い靄が祓われた。
それはまるで彼の体内から排除されたように見えた、と一部の目撃者はそう証言する。
ほかの人々は、男の装飾具が砕け散ったのを目撃していた。

「え? ……あ、え……?」

男は自分になにが起きたかわからずに混乱していた。その様子を見ていたジズは安全を確信したのか、翼を広げると音もなく飛び去った。


「それで、なにがあったのかジズに聞いてこいって? ダンジョンから戻ったばかりの私を捕まえて? 知りたかったら自分でいけ。ひとに頼るな。足だけでなく頭も使え!」
「読者のみんなも知りたいはずです!」
「だ~か~ら~?」
「……え?」
「だから? それでなに? 私は情報部ではないし、アンタのパシリでもない」
「今までも協力してきたじゃないですか! 私が女だからって、新人だからってバカにする気ですか!」

私の言葉に憤慨する情報部の新人記者。周りも見えていないようだ。すでに各所へ連絡してくれている。このまま放っておいても大丈夫そうだ。

「協力? 私はただ取材を受けただけ。それも記者さんが調べてきたことを確認って形で。私はそれの補足をしていただけ。で、あなたは何? 自分で取材して回らず、何にもしないで私に丸投げ? それで私からもらった情報をただ文章にしてニュースとして流すの? ねえ、情報部って新人教育をしないで、記者として仕事をさせてるの?」
「そんなことありませんよ」
「え……? あ、先輩‼︎ 何故ここへ……」

自分の背後から声がして振り向いた新人記者。そこには情報部で私の担当記者が立っていた。私の担当は男女四つ子の記者。双子でもそうだが、多胎の場合、どちらが兄姉でどちらが弟妹というのはない。『一緒に生まれた兄弟姉妹はみな平等』という考えだ。立っていたのは四つ子の男性で名前をメッシュ。彼らは多胎の兄弟姉妹に多い『シンクロニシティ』を共有している。これは記者として有用で、同時に情報が共有される。

「メッシュ、おひさ~」
「久しぶりです、エミリアさん。このような騒動に巻き込んでしまい、本当に申し訳ありません」

メッシュが朱色の頭を下げると新人記者が慌て出した。メッシュたち四つ子は情報部でもこのダンジョン都市シティ内でも有名だ。それはどんな事件でも事故でも惨劇でも、許されるなら直接現場に足を運ぶ。許可が出なければ、当事者や目撃者に取材を申し込む。もちろん断られれば引く。

「身体の傷が癒えたとしても、見えない心の傷は深いこともある」

この言葉は四つ子に深い影を落とす。四つ子は事件被害者だ。だからこそ、大人たちの『無責任な言動親切の押し付け』で、心に深い傷を負った。以前、私がこの都市まちに来てすぐの頃に、記憶のない私が周りに言った言葉だ。その言葉を知った四人の心にストンと入り込み、それを自身の原動力としたのだった。

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