私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第八章

第329話

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その事件が起きたのは、柵に板を張り付けた簡素な壁に等間隔に『魔物よけ』の魔導具が設置されただけの外周部のその外。別に罪を犯した者が外周部内に入られないという訳ではない。……入れないのは魔物だけだ。魔物よけが起動しているのだから、当然と言えば当然だ。蛇足だが、魔物が進化した魔人も問題なく中に入れる。
……にも関わらず、その日姿が入ることができなかった。

「これはどういうことだ! なぜ俺だけがこれ以上前に進めない‼︎」
「どうもこうも、『魔物よけの魔導具が起動している』としか言いようがない」
「俺が魔物だとでもいうのか!」

乗合馬車では乗客に魔導具起動の該当者がいる場合、魔導具が反応して馬車は停車する。そして、トラブル防止のため、全員には徒歩で境界線を越えてもらうこととなる。境界線は見えないが、地面には顕著に現れている。まず、地面の色が違う。カサカサした荒地から、粘土質の赤茶色が目立っていくのだ。最近ではダンジョン都市シティを中心とした大地の浄化が広がりを見せ、外周部の城壁から五百メートルの範囲に雑草が生えはじめ、二百メートルの辺りから雑草は目立ち樹木がチラホラと見えてくる。
見えないが、間違いなく影響は出ているのだ。

「どういうことだ! なぜ……なにが……」

必死に境界線を越えようとするものの、見えない壁に阻まれて中に入ることができない。

「ちくしょう! なぜだ……なぜ…………ここまできたのに」

境界線で安全が保たれているという安全地帯にいるからか、乗客の男女が遠巻きに様子を見守っている野次馬根性をみせている
突然、ダンジョン都市シティの方向から咆哮が轟いた。我先に荷台に駆け込む乗客たち。そんなことしても、相手が暴れれば一溜まりもないというのに。
咆哮を聞いても動じなかったのは御者たちだけだ。

神鳥しんちょうジズ様」

優雅に空を舞い、近付いてくるジズに御者二人は自然に跪きこうべを垂れる。荷台に隠れた乗客たちも、虹色に輝く神鳥を視認すると自然と荷台から降りてきて、御者と同じように跪く。
ファサッという柔らかい羽の音を立てて地面に降り立ったジズは、驚きで腰を抜かして地面に座ったまま見上げている境界線を越えられない男を澄んだ瞳で見つめた。

「まるで心の底までみられているようだった」

のちに彼はそう話している。怖いとか一切感じず、ただ見返していただけだ、と。同時に、境界線を越えられないことで生まれていた焦りの感情も消えた。それはほかの乗客たちもこう証言している。

「あの場は一瞬で神殿のように清らかで神々しくなった」
「まるで神聖な場所に迷い込んだ気分になった」
「神に見捨てられたこの地に神が舞い降りた」

と。
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