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第八章
第316話
しおりを挟む徐々に恐慌に落ちた人々が落ち着きを取り戻して静かになっていく。
「そろそろ、話しの続きに戻っていい?」
コクコクと頷かれたが、彼らの半数は口を開いたらまた笑い出しそうだと自覚しているからだろう。
「それで、お二人の希望通り『一緒に罰を受けてもらう』ことにしたの。なんか、本当は結婚祝いに奴隷から解放されるつもりだったみたいだけど、そんなことで借金の踏み倒しを認めるはずないじゃん」
「まあ、確かに……」
「しかし、連中をどこに? 娼館や男娼館に入れれるはずはないだろう?」
そう聞かれて、私は指先を下に向けた。それに合わせて全員も下へ顔を向ける。
「地下。騰蛇にあげたの」
「魔物にするのか?」
その質問に首を左右に振る。
「連中は騰蛇やキマイラたちと『鬼ごっこ』してる。時々『かくれんぼ』もしてるみたい。空腹も疲労も出ないし、地下だから時間の概念もない」
「それでエミリアさんに何か得でもあるんですか?」
「それ自体にありませんよ。ただ面白そうってだけですね。ですが、あの二人の身柄はすでに譲渡という形で騰蛇たちに譲りました。対価は、翡翠や紅玉、翠玉など彼らが集めた宝石の数々と……その聖獣です」
「おい、エミリア。聖獣って……」
「宝石の聖獣カーバンクル。額の宝石で種別が変わる。ということで、聖魔師として契約しちゃった♪」
「エミリア~‼︎」
契約をしたことを報告したら、ダイバに叱られた。
「だって~、悪さしないようにするのも悪用されるのを防ぐのも、聖魔師と契約するのが一番なんだもん」
外見はウサギのような長い耳を持ったリスっぽい小動物。みんな同じ大きさだけど、額の宝石が体毛と同じ色となっている。
「……問題は?」
「特にないよ」
「いま『悪さしないように』っていっただろうが!」
「問題じゃないもん。イタズラが好きなだけだもん」
私がペンダントの涙石に触れると、カーバンクルたちが飛び出してきた。主食は木の実、好物は鉱物。好きな物は、普通に道端に転がっている石。その石を額の宝石にしまうと、翌日には額の宝石と同じ宝石に変わる。
「どうなってるんだ?」
「自分の司る宝石が周りに多くあるほど安心する、らしいよ」
「無限に宝石を生み出す、ということか。そいつは貴族たちが手に入れようとするな」
「そういうこと」
「お前ら! 何とかしろ!」
私とダイバがカーバンクルの話をしている間も、カーバンクルたちはリスのように走り回り、みんなの頭を飛び石のように飛び越えていた。
「楽しそうだね」
「そうだな」
「おい!」
「ったくー。ちゃんと言ったじゃん『主食は木の実』だって」
私がそういうとカバンやステータスから木の実を出す人たち。飲んべえではないが、緊急事態のとき用に持ち歩いているのだ。そして、木の実の匂いにカーバンクルたちは反応した。木の実をだした人たちの前にでて小首を傾げる。
「食べていいなら手に乗せて差し出して。この子たちは人の物を盗らないから」
私の指示どおりに手に乗せて差し出す人たち。その手から木の実をもらうと、カーバンクルはカリカリカリと木の実を齧りだす。食べ終わると、また手の上にある木の実に手を伸ばしてカリカリカリ……と始まる。
「え⁉︎ おい、エミリア、宝石を置いてったぞ。いいのか、コレもらっても」
「ああ、お礼だろ。もらっていいよ。時々お礼に置いていくんだ」
「そうか……ありがとな」
目の前で木の実を齧っている青いカーバンクルに礼を言うと、その子は食べていた木の実をそのままテーブルに置いて彼の指を掴むと、手の上に乗せていた宝石を掴んで額の宝石にしまった。
「え?」
「いらないと思われたのか?」
周囲が小さな声で話し合う。そのまま、カーバンクルの様子をみんなが見守っていると、カーバンクルは額から先ほどより一回り大きな宝石を取り出してその手に乗せるとペチペチと宝石を叩いて満足そうな表情になると、一度置いた木の実を手にして一心に齧りはじめた。
《 美味しかったからお礼を大きい宝石に変えたんだよ 》
水の妖精の説明に誰もが微笑んで木の実を齧るカーバンクルを見守った。
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