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第八章
第313話
しおりを挟む賃金の差は全員納得した。一番抗議しそうなハイルも、自らの行いを思い返して素直に反省していた。……今年も巨大な砂嵐がくるのか?
「悔しかったら、自分のことは自分でするんだな。そうすればチビッコたちが貰う賃金のいくらかは自分の懐に入ってくるだろ」
十二日分の食事代を請求にきたダイバの言葉があったからかもしれない。
請求先は四兄妹とハイル。最初にした話し合いで四人は食事を希望した。ハイルは同じ建物で一緒だと信じていた二人に作らせる気だった。しかし、私がハイルを一人にしたことで、自分で料理をしなくてはいけなくなった。それでも二人が自分の食事を用意していると思い込み、二人が住む家に向かった。……もちろん、二人分の食事しかなかった。それに対して文句をいい、食事を持ち出そうとして駆けつけたエリーさんに吹っ飛ばされた。
「強盗で犯罪奴隷に落ちる気か!」
「俺は俺の分のメシをもらって行こうとしただけだ」
「家が違うということは、自分で自分のことをするんだ。それができないというなら食事は食堂から届けてもらえ」
「俺は里長の息子で守長だ」
「元、な」
私の言葉にハイルの目つきが険悪に変わる。しかし、すぐに声の主が私だと気付いて目を背けた。
「それでどうするんだ? 食堂のメシを食うならお前の家に持っていく。しかし、最安値の料理一択だ。美味いもんを食いたいなら賃金を貰ってからにしろ」
ダイバの言葉に絞り出すように「お願いします」とだけいった。
入浴も可能だし、シャワーだけで汗や汚れを落とすだけでもいい。生活魔法で身体を綺麗にすることも可能。しかし、生活魔法はステータスの封印で使えない。そのため、希望者には生活魔法を使える食堂の誰かにかけてもらうことになった。誰かに固定していないのは、時間だけ決めておけば食堂が忙しい中で誰かが抜けるデメリットを減らすため。農園に続く裏口まで来てもらえば、ちょいっと外に出てすぐに戻ることが可能だ。そのときに少しでも手が空けられる人が行けばいい。そう提案したらバラクル側に採用された。いつ作業が終わるかわからない相手に合わせるのではなく、相手に来てもらえれば楽なのだ。
「あの子たちは奴隷ですから、皆さんがあの子たちに合わせるのではなく、あの子たちが迷惑をかけないようにバラクルにこればいいんです。セウルたちを可愛がりたいと思うのはわかります。ですが、奴隷から解放されて自由になれるまで待ってください」
「特にアゴール、お前のことだ。アイツらはアニキの形見だ。救いたいと思っても手を出すな。いいか? アイツらに『家族の温もり』を与えちまうと奴隷として働けなくなる。早く抱きしめてやりたいなら、今は兄妹四人で乗り切らせるんだ」
「でも、あの子たちは……」
「アゴール‼︎ なんのためにエミリアが助けたと思っているんだ! エミリアの優しさに甘えるな!」
ダイバの本気の怒りに触れて、アゴールは涙をこぼしながら私に謝罪して、奴隷から解放されるまで会わないと約束した。
「……見てしまったら、きっと甘えがでてしまう。エミリアさんに解放を望んでしまう。だから……会えない」
アゴールは、なぜ自分だけ会わせてもらえなかったのか。やっとその理由に納得してくれた。
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