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第八章
第300話
しおりを挟む「それでは二番。こちらは……」
奴隷の金額は舞台に上がったときに候補者にのみ開示される。本人の労力と奴隷の金額が合わないという理由で購入を見合わせる場合もある。この二番の奴隷がそうだ。
「エミリアさん、あの奴隷の評価は?」
「借金奴隷だけど、あれは賭け事で借金を重ねて返せなくなった。友人などに借金してはギャンブルに注ぎ込んで、結局誰からも貸してもらえず借金奴隷になった」
「ギャンブルによる借金奴隷か……。それはアウトだな」
ヘインジルに答えるとダイバが小さく漏らした。ギャンブルが悪いわけではない。お金を借りてもそれで借金を返すのではなく、さらに増やしてやるといってギャンブルに手を出していたのだ。パーティなどで「魔物を多く討伐した方が勝ち」といって酒を奢るような可愛いものではない。奴隷である以上、奢り奢られの駆け引きはできない。じゃあ何を賭けるか。それは与えられた仕事量を賭けたりってことだろう。それは仕事を疎かにしかねない。
奴隷がチラチラとこちらを見ているのは『俺は借金奴隷だぞ』というアピールだろう。しかし、その目が誰もが購入を渋る原因だ。
「……気持ち悪い」
「ええ、あんな気持ち悪い目を向けてくる男は、たとえ性格と顔が良くても関わり合いたくはないです」
私たちの言葉に周りの男性たちから声が漏れる。
「あんなのをパーティにいれてみろ。女性たちから総スカン食らうぞ」
「それよりも、女性たちが近付かなくなる」
「今でさえむさ苦しいと言われているんだぜ。これ以上、女性たちに嫌われるようなことは避けたい」
鑑定で借金奴隷の値段もわかるが、二番の金額は三千万ジル。白大金貨三枚という高額。この時点で手を出せるのは限られている。ここにいる冒険者と正規の娼館や男娼館だ。ただ、それだけの価値がこの奴隷にはない。まず、前職は商店の荷役夫。だからといって筋力があるわけではない。大八車で運ぶだけで、乗せる・おろすのは別の者だ。魔法の世界だからね。一般なら普通に重力魔法で動かせる。ただ、魔法には得意不得意があるけどね。
この二番は重力魔法が不得意のため、自力で荷上げや荷下ろしをしなくてはならない。それができないから荷運びのみ。もちろん、それは稼ぎの低さに直結する。そしてお得意のセリフが始まるのだ「この金を何倍にも増やしてやる」という、どこからくるのかわからない自意識過剰と自己満足と自信満々のセリフが。
「荷運びができないなら必要ない」
それが、本人の過去を証言した荷役夫仲間たちの評価を聞いた冒険者たちの出した共通の意見。それでも、二番はダンジョン都市に招かれると思っているらしく私たちに視線を向けてくる。それは決して実現しない。
「それでは、二番の主人候補を希望される方は挙手をお願いします」
誰も手をあげない。その様子に二番は大きく目と口を開けたが声はでない。騒ぎを起こさないようにつけられた首輪が私語を禁じているからだ。
「それでは、購入希望者はなしということで……」
司会者の言葉で二番は手枷に繋がれた鎖を引かれて退場していった。顔を最後までこちらに向けて目で何かを訴えていたが、不快そうな視線を一斉に受けて最後は俯いていった。
「えー。奴隷としての立場も弁えぬ者を出品したことで皆様に大変不快な思いをさせてしまったことをここお詫びします」
奴隷商が司会者の横に立ち、そう謝罪して深く頭を下げた。
彼の口から、二番は労働奴隷として水路工事で生涯を終えることが決まっていたことが発表された。それがこの場にでたことには理由がある。『ダンジョン都市で借金奴隷を求めている』と聞いて自分にもチャンスがあると思った二番が自分の借金を増やしてでも舞台に立ったということだ。
奴隷が自ら奴隷市に出るのを希望する場合、奴隷商に借金をして出してもらう必要がある。二番はすでにあとがないため、最後のチャンスにかけたようだ。
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