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第八章
第298話
しおりを挟む「皆さま、大変お待たせいたしました。これより奴隷市を開始いたします」
大きな声が会場内に響き、それまで賑やかだった声が一瞬で静かになる。司会者の胸に声を送る魔導具がつけられ、会場の壁にはその声を届ける魔導具が設置されている。マイクとスピーカーに近いだろうか。ちなみに、会場の後ろの立ち見席にいるのは見学者で、奴隷を購入するつもりもお金に余裕がない人たちだ。
ちなみに、冒険者は荷物持ちとして奴隷を購入する。大抵は借金奴隷となった元冒険者を対象にする。魔物に怯えて気絶されるならまだ良い。悲鳴をあげて逃げ出されては……さらなる魔物を招く結果になる。それを避けるために、元冒険者が好まれている。借金奴隷じゃないとダンジョン都市には入れないため、鑑定できる人や鑑定ができるアイテムを持っている人たちは重宝されて臨時収入になる。
そういう私も、ダンジョン管理部からの依頼で鑑定の協力をしている。私への報酬は、ダンジョン管理部所属の討伐部隊がダンジョン内で取得してきたものだ。今までも、ダンジョン管理部からの依頼の報酬にはそういう取得物が使われている。今回は、ほとんどの鑑定可能な人たちが冒険者たちに協力していたのと、管理部からの依頼は他者からの依頼と併用できない。管理部などで得た情報の漏洩を防ぐためだ。
「エミリアさんが個人で購入したい奴隷がいたら、気にせず購入してください」
「うん、ちょっと気になる奴隷が数人いたから購入するつもりだよ」
「では、その奴隷がでたら声をかけてください」
「あ、すでに事前交渉が済んでるから『売約済み』ででてくるよ」
初日そして昨日のうちに、目をつけた奴隷を所有する奴隷商とは事前交渉が済んでいる。出品奴隷として公開されたため、舞台に『売約済み』で出される。
「奴隷は買わない予定だったんだけどね。……ちょっと状況が変わった」
「まあ、エミリアが選んだんだ。なんか理由があるんだろ」
ダイバの言葉に黙って頷いたが複雑な感情が湧き上がってしまい、隣に座るアゴールに抱きついた。
「エミリアさん……?」
「エミリア、どうした?」
「それでは一番! 夫が犯罪ギルドに関わっていたため、町を追われ……」
ダイバの言葉に被せるように司会者の声が重なった。
「ダイバ、前を見てて。……こっちは大丈夫だから」
「しかし……」
「リストを確認してて。エミリアさんがチェックしてくれた奴隷の情報を聞き逃さないで」
「…………わかった」
ダイバが気にしながらも前を向いた。それを確認したアゴールが黙って抱きしめてくれた。私が小さく震えているのに気付いていたからだろう。
舞台に上がるのはリスト通りではない。順番は出品の手続きをした奴隷商からだが、奴隷が舞台に出る順番はランダムだ。直前になって出品に加えられる奴隷もいる。
一番目の奴隷もそうだ。ただ、彼女は犯罪奴隷。旦那が、同郷の知人が犯罪ギルドに関わっていると気付かずに金銭を融通した。そして犯罪ギルドが壊滅して知人は捕まり、貸した金銭は戻らず。それは正式に訴えたためその知人には借金が追加されて貸した金銭は戻った。しかし、同郷ということでことで白い目で見られていたが、知人に金銭を貸していたことで『犯罪ギルドの協力者』と見做されて町から追放された。
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