266 / 789
第八章
第279話
しおりを挟む『聖魔士くずれ騒動』ですっかり忘れられてしまっただろうか。アウミの存在が『生きた証拠』となり、判明した犯罪ギルドの事件を。すでに犯罪ギルドは解体し、犯罪者は捕縛され、犯罪に手を染めていない者は保護された。そして、聖魔士ギルドに侵入していた元・犯罪ギルド所属だった者たちも騒乱罪で捕縛された。
このタグリシア国で王都の次に大きいファウシスという街に送られて保護とギルド壊滅に協力という名目で取調べを受けていたアウミ自身は、本人の告白通りに調査が判明して『犯罪とは無関係の孤児』との太鼓判を押された。本人の希望通りにダンジョン都市に送り返された彼女は、ダイバたちの母が経営する食堂バラクルに引き取られて一年。まだ平均よりは小さいものの健康体といえるまで体力は回復した。そんな彼女は両親が冒険者だったこともあり、冒険者として必要なアイテムの知識を持っていた。
「今年からソマリアのパーティに加わることになったの。当分の間は荷物持ちだけど」
「ソマリアのパーティは三人だっけ?」
「はい。全員女の子だけど、無料ダンジョン専門だから大人たちに見守ってもらえるから安心して潜れるよって」
食堂に行ったとき、アウミは皿洗いの手伝いをしていた。そんな彼女が私に気付いて報告にきたのだ。時間をずらして行っているため客もまばらで、彼女も小休憩という形で休みをもらってきたようだ。
「じーさんやばーさんとか、なんか言ってきたんだろ?」
「はい。私を引き取りたいって。『何を今さら』って返事しました」
アウミは元貴族らしい。しかし、彼女の後継人の立場を両親の実家が取り合い、両親は彼女を連れて出奔した。国王と王妃に王子が誕生し、彼女は王子の婚約者候補に選ばれたらしい。それだけで政権争いが始まった。さらに彼女の弟が未来の側近候補に選ばれたと同時に、権力争いを優位にしたい両親の実家はアウミが王子妃に確定したと吹聴して回った。
……その結果、当時まだ二歳に満たなかった弟は誘拐され、見せしめのように惨殺体で発見された。その頃、弟のほかにも側近や王子妃候補にあがった子供たちが誘拐されては死体で見つかっていた。そのため、アウミの両親は息子を先祖代々の墓に埋葬するため妻子を連れて領地に戻った。そして息子を埋葬した翌日に領都を出たものの王都に戻らず、そのまま国を捨てた。
調査の結果、弟たちの死には犯罪ギルドが関わっていた。それだけでなく、冒険者になっていたアウミの両親の死にも犯罪ギルドが関わっていた。アウミだけでも見つけて取り戻そうとしたのだ。
そんなアウミが闇取引で奴隷として豪商に売られたのは、彼女を手に入れた犯罪ギルド側が引き渡しに法外な値段を上乗せしたからだ。それを突っぱねた結果、彼女の身柄は祖父母ではなく豪商に引き渡された。
ソアラとソマリアの顔馴染みの孤児が、その豪商の荷馬車の中で荷物の中に隠されるようにして眠らされていたアウミを見つけた。そして相談を受けた二人が、眠るアウミを二人に住む家に連れ帰った。
「二人には感謝している。怯える私を一生懸命世話して守ってくれた」
彼女たちはアウミがバラクルのフーリさんたちに預けられても何度も会いにいき、ファウシスに送られる際には「必ず戻る」と約束した。約束を守って戻っても、自ら生きられる道を選ばなくてはならなかった。二人に甘えるために戻るのでは意味がない。それだったら、引き取りを望んだ祖父母の元に帰ればいい。
「私は冒険者になる」
それを宣言して戻ったアウミはバラクルに向かい、住み込みで働かせてもらいたいと頭を下げた。もちろん、目指すのは冒険者だ。だから、満足に働けないかもしれない。
フーリさんたちは、そういったアウミに「だったら出世払いにする」と快く許したらしい。冒険者になり、ダンジョンに入って食材や魔物の肉を獲れるようになれば、バラクルに提供する。その誓いをして現在に至っている。
82
お気に入りに追加
8,060
あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います
菜花
ファンタジー
ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。