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第七章
第266話
しおりを挟む彼女も『息子の成れの果て』をミスリアから見せられて、ようやく他国で何をしてきたのかを知った。そして、後悔からずっと泣き続けていた。
彼女は娘に聖魔師を籠絡させて、貴族並みに裕福な生活がしたいと思っていた。生憎、聖魔師は女性で、計画は実行前から失敗していた。その聖魔師本人は裕福にもかかわらず人任せにはしない。店を持っているらしいが、それすらも本人がすべてやっていた。
「娘に店を譲って。それがダメなら店長にして」
娘を連れて店まできた彼女は、何しにきたのか私服守備隊に聞かれてそう言って、初めて母親の魂胆を知った娘に全身全霊をこめた握りこぶしで殴られた。
この都市にくる途中で、私たち一行はアントの集団に襲われた。それを救ってくれた命の恩人に何を考えているのか、と。
「私たちが国を追われた原因は聖魔師でしょ! だったら私たちが遊んで暮らせるだけの慰謝料を寄越すのが筋ってものよ‼︎」
「バカなことを言わないで! お母さん、私がここに今こうして立っていられるのは、聖魔師様のおかげなのよ」
そして、護衛の冒険者が敵わなかったアントの集団に、一人でいくつもの魔法を使って全滅させてくれた、と話した。さらに見張りだったメクジャから「聖魔師様にその身体を差し出せ。もし気に入ってもらえなかったら殺してやる。その罪を聖魔師様に押し付けてコルスターナに連れていく道具にしてやるわ」と言われていたことも包み隠さずすべて話した。
「お母さん、兄さんはこの都市で使役していた魔物を放ったのよ。それを一切の被害もなく収束させた上で、すでに『聖魔士くずれ』となって魔物化し始めていた兄さんを救ってくれたのも聖魔師様よ」
「それでも、聖魔師が現れたせいで私は塔に閉じ込められて……」
「お母さん、それも勘違いよ。お母さんは私が逃げ出さないための人質。聖魔師様がお城にきたら人質は必要がないから、私たちを殺すつもりだった。……最初から私たちは成功しても失敗しても殺されるはずだったの。それを聖魔師様はメクジャから直接聞き出してくださって、妖精様がお母さんを助けだすまでの間、国王たちを陽動して注意を引き付けてくださったのよ」
ミスリアたちが店の前でケンカしていたから、私たちも二階でその様子を見ていた。結局、ミスリア母娘は守備隊の詰め所に連れていかれた。情報部のニュースで厳重注意されてから解放されたと知った。その頃には情報部から提供されたニュースで何が起きていたのかを知り、魔石に残された記録映像を見ることで母親も理解した。
息子が魔物化していく姿を見てショックだったのだろう。その日から毎日泣き暮らしていた。王都に娘と共に向かい、贖罪のために神殿併設の孤児院ができたときに下働きとして孤児の世話を始めた。
「兄の生命と引き換えに救われたことまでは気付いていません」
ミスリアはそう言っていたが、たぶん気付いている。孤児院で働くのを贖罪のためと言ったのだから。
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