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第七章
第259話
しおりを挟む「あれは『エミリアのいた世界』のやつだ」
ダイバがミリィたちのいる鉄板屋に入って魔導具を起動させると開口一番にそう口にした。
「エミリアに色々確認したが塔や像に詳しい。あれはエミリアの身近にあったからだろう」
「ちょっと、ダイバ。あんた、なんでエミリアちゃんのこと知ってるのよ!」
エリーが立ち上がり、我を忘れて声を荒げる。ダイバとアゴールに初めて会ったときに話をぼかした。しかし、目の前にいるダイバは『エミリアは異世界からきた』と知っている。
そんなエリーの姿を見て、ダイバは大きく息を吐く。
「俺が竜人なのは知っているだろう? 特異は『この目』だ。そういえば、エルフならわかるんじゃないか?」
「……あ、ああ。『見た』ということか」
竜人には特異とよばれる特殊能力を持つ者がいる。ダイバは目に特殊能力を持っている。特異を使って見れば、その相手の過去を遡って見ることができる。ただし、一部だけだ。最近の過去なら五分くらい、一年前の過去を見ようとすれば三分。それを最初に見たのは、自分たちを奴隷商に売ろうとしていた男たちだった。
記憶がないというエミリアがダンジョン都市に現れたときに視た。
寝室で目覚めたらしいエミリアが、焦点のあわない目でテントの中を彷徨う姿を。そして、ある部屋の中でひと言呟いて床に倒れる姿も見た。
そのとき聞いた『お兄ちゃん』。
それと同時に自分も思い出した。生き別れた三人の弟妹を。父との約束を。
エミリアの姿が妹のように思えた。いや、妹へ向けるのと変わらない感情だった。両親が共に暮らしていれば、弟妹はさらに増えていただろう。だったら、エミリアという『生き別れた妹もいた』と思えばいい。
エミリアの存在を受け入れたからだろうか。彼女の過去を何度か夢で見た。
「その夜、俺は夢を見た。エミリアやその家族の他愛ない日常と…………家族の死と、たくさんの人たちの死を」
その中で、エミリアは無理をしていた。無理をして、無理をし続けて……倒れた。家族の死と向き合い、必死に生きていた彼女は、突然この世界に召喚されて……城から出て行った。
追い出された、というより、自ら出て行った。「いらない」と言われたこともあるが、もう一人の少女の邪魔にならないように、という考えだった。
「私たちに悪いと思っているなら、あの子を守ってください」
エミリアは自分を召喚した人たちに何度もそう訴えた。自分という代わりがそばにいたら、あの王子は絶対に彼女を大切にしない。それなら自分がいなくなり『聖女は彼女しかいない』と思えば、さすがに大事にするだろう。
その覚悟を聞いた彼らは、エミリアが困らないよう身分証や収納カバンだけでなく当面の生活に困らないように多額のお金も渡して王都へと送り出した。
ダイバの見た『真実』に、話を聞いた全員が言葉をなくした。
「だから……だからエアちゃんは王都から去らなかったのね。もしもの時には、もう一人の聖女様の代わりになるために」
「エアさんは聖女様として十分王都のために尽くしてくださいました。アントをはじめとした魔物の襲撃のことも、悲劇の終焉から始まった混沌も」
「それも夢で見た。その結果、無理をして記憶を失った」
ダイバの言葉に声を失い、中には苦しそうに俯く者もいる。誰もが、エアが無理をしていても止めることができなかったのだ。そしてすべてが解決した。その対価が『エアの記憶の消失』だった。
ミリィがこの都市にきたとき、エミリアが過去で会っていたことに気付いた。そのため、遠まわしに『エミリアに記憶がない』と伝えてどうするか見守った。ミリィはエミリアに「はじめまして」と声をかけた。ここにいる連中も、今回は国に残った連中もそうだ。誰もが「はじめまして」から始まっている。
「エミリアは……エアはこの世界に召喚された最後の聖女だ。だが、今はエミリア。この都市では珍しい商品をとり扱う商売もしている冒険者だ。聖魔師の肩書きは関係ない。この都市で仲間として受け入れられれば、誰もが全力で守る。エミリアもミリィもすでに仲間だ」
ダイバの言葉も目もそれがダイバ一人の考えでないことを物語っていた。
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