私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

文字の大きさ
上 下
246 / 789
第七章

第259話

しおりを挟む

「あれは『エミリアのいた世界』のやつだ」

ダイバがミリィたちのいる鉄板屋に入って魔導具を起動させると開口一番にそう口にした。

「エミリアに色々確認したが塔や像に詳しい。あれはエミリアの身近にあったからだろう」
「ちょっと、ダイバ。あんた、なんでエミリアちゃんのこと知ってるのよ!」

エリーが立ち上がり、我を忘れて声を荒げる。ダイバとアゴールに初めて会ったときに話をぼかした。しかし、目の前にいるダイバは『エミリアは異世界からきた』と知っている。
そんなエリーの姿を見て、ダイバは大きく息を吐く。

「俺が竜人なのは知っているだろう? 特異は『この目』だ。そういえば、エルフならわかるんじゃないか?」
「……あ、ああ。『見た』ということか」

竜人には特異とよばれる特殊能力を持つ者がいる。ダイバは目に特殊能力を持っている。特異を使って見れば、その相手の過去を遡って見ることができる。ただし、一部だけだ。最近の過去なら五分くらい、一年前の過去を見ようとすれば三分。それを最初に見たのは、自分たちを奴隷商に売ろうとしていた男たちだった。
記憶がないというエミリアがダンジョン都市シティに現れたときにた。
寝室で目覚めたらしいエミリアが、焦点のあわない目でテントの中を彷徨う姿を。そして、ある部屋の中でひと言呟いて床に倒れる姿も見た。
そのとき聞いた『お兄ちゃん』。
それと同時に自分も思い出した。生き別れた三人の弟妹を。父との約束を。
エミリアの姿がシエラのように思えた。いや、妹へ向けるのと変わらない感情だった。両親が共に暮らしていれば、弟妹はさらに増えていただろう。だったら、エミリアという『生き別れた妹もいた』と思えばいい。
エミリアの存在を受け入れたからだろうか。彼女の過去を何度か夢で見た。

「その夜、俺は夢を見た。エミリアやその家族の他愛ない日常と…………家族の死と、たくさんの人たちの死を」

その中で、エミリアは無理をしていた。無理をして、無理をし続けて……倒れた。家族の死と向き合い、必死に生きていた彼女は、突然この世界に召喚されて……城から出て行った。
追い出された、というより、自ら出て行った。「いらない」と言われたこともあるが、もう一人の少女の邪魔にならないように、という考えだった。

「私たちに悪いと思っているなら、あの子を守ってください」

エミリアは自分を召喚した人たちに何度もそう訴えた。自分という代わりスペアがそばにいたら、あの王子は絶対に彼女を大切にしない。それなら自分がいなくなり『聖女は彼女しかいない』と思えば、さすがに大事にするだろう。
その覚悟を聞いた彼らは、エミリアが困らないよう身分証や収納カバンだけでなく当面の生活に困らないように多額のお金も渡して王都へと送り出した。
ダイバの見た『真実』に、話を聞いた全員が言葉をなくした。

「だから……だからエアちゃんは王都から去らなかったのね。もしもの時には、もう一人の聖女様の代わりになるために」
「エアさんは聖女様として十分王都のために尽くしてくださいました。アントをはじめとした魔物の襲撃のことも、悲劇の終焉から始まった混沌も」
「それも夢で見た。その結果、無理をして記憶を失った」

ダイバの言葉に声を失い、中には苦しそうに俯く者もいる。誰もが、エアが無理をしていても止めることができなかったのだ。そしてすべてが解決した。その対価が『エアの記憶の消失』だった。
ミリィがこの都市まちにきたとき、エミリアが過去で会っていたことに気付いた。そのため、遠まわしに『エミリアに記憶がない』と伝えてどうするか見守った。ミリィはエミリアに「はじめまして」と声をかけた。ここにいる連中も、今回は国に残った連中もそうだ。誰もが「はじめまして」から始まっている。

「エミリアは……はこの世界に召喚された最後の聖女だ。だが、今はエミリア。この都市まちでは珍しい商品をとり扱う商売もしている冒険者だ。聖魔師テイマーの肩書きは関係ない。この都市まちで仲間として受け入れられれば、誰もが全力で守る。エミリアもミリィもすでに仲間だ」

ダイバの言葉も目もそれがダイバ一人の考えでないことを物語っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。