私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第七章

第253話

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若い子たちが協力し合うことで、新しく生まれ変わるタグリシア国。すべてが消えて城壁のみになった王都の結界が解除されて王都の住人たち。それを見た彼らはまず最初に言葉を失い、しばらくすると誰かが笑い出し、それが伝染して全員が大きな声で笑い出した。

「ここまできれいサッパリなくなると逆にスッキリした!」

誰もがそう言った。

「これってなーにー?」

子供たちは地面を覆う雑草を指差して大人たちに聞く。それに誰も答えられないでいた。荒野の中、植物は町の中で見かけるだけ。王都から出たことのないほとんどの人には『これは草というものだ』というのもわからない。ただ、ダンジョン都市シティの中は植物が豊富にある。ダンジョン内の植物を植えているからだ。

「これは草だよ」
「草? 草っていうの?」
「そう。これからは、この王都でも少しずつ植物が育つようになるよ」

貴族の男の子の言葉に子供たちは嬉しそうに笑う。彼らはダンジョン都市シティで育つ植物をいくつも見てきた。だから、植物が育つように勉強すると誓っていた。

「ダンジョン都市シティと王都とは何が違うのか。貴族や犯罪者が除去されているから? それとも、土? 水? 今回、地面はリセットされた。水も新しく引き直す。排水処理場も新しく作る。みんなも一緒に植物が育つ王都まちを作るために協力してください」

貴族の少年たちが平民にお願いをする姿に驚く。今まで、彼らの親たちからは命令しか受けてこなかった。それが『深々と頭を下げて』言われたのだ。

「ぼく、てつだうー」
「わたしもー」

貴族に対してわだかまりをもたない子供たちが次々に『はーい』と手を上げていく。その姿に、貴族に蟠りをもつ大人たちは戸惑いの表情を見せ合っていた。

「一つ、確認させてくれますか?」
「はい、なんでしょう」

職人……それも料理関係だろう男がおずおずと前に出てきた。

「国王陛下や……大人たちは……え、と」

聞きづらいのだろう。王都の結界が消え、いま残っているのは子供たちだけ。中で大暴れしていた魔物たちも大人たちもいない。『捕食された食われた』と思われたのだろう。

「安心してください。混乱して暴れていた神獣は救い出されて、今は落ち着いています。そして、父たち大人は『神の罰』を受けています」
「神の罰……」
「はい。そのため、父たちには現職を退いていただきます。私が国王を、ここに控える者たちも各々が親のあとを継いで、新しい国づくりをしていきます。ですが、私たちは右も左も分からない若輩者じゃくはいもの。皆さんにはご不快な思いをさせたり、ご迷惑をおかけすると思います。さらに、さまざまな協力をお願いすることもあるでしょう。そのときはよろしくお願いします」

王子の言葉に貴族の子供たちが一斉に頭を下げる。
唖然とする大人たちの中から、パンッパンッと手を叩く音が聞こえると、我に返った人たちも手を叩く。それが広がり、拍手喝采になった。中には「がんばれ!」「応援してるぞ!」という声も聞こえる。

「皆さん……、ありがとうございます」

新国王となる少年は目に涙を浮かべて、もう一度深く頭を下げる。それを励ますように、拍手の音がさらに大きくなった。
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