218 / 789
第七章
第231話
しおりを挟む「じゃあ、ちょっと出かけてくる」
「王都ですか?」
「うん。滅ぼしてくる。ついでに、『今回の主犯も持ってくる』から」
「公開檻を追加して待っています」
守備隊の隊長で私服守備隊の管理もしているノーマンだが、本当に話がわかる。
『飛翔』
ふわりと浮かぶと、空を覆う結界に穴が開く。魔物よけの結界は『外からくる魔物』に効果はあるものの、『結界の中から出るもの』には効果がない。
結界の外に出るとキマイラが嬉しそうに寄ってきた。遊んでもらえると思ったようだ。
「キマイラ、私はちょっと出かけてくるから。ここの守りをお願いね」
グルルルルルル
鬣に顔を埋めて首回りを撫でてあげると嬉しそうに喉を鳴らすキマイラ。顔はフサフサな鬣の雄ライオン。身体は……どうだろう? 日本で読んだ本にでてきた『キマエラ』の身体はヤギだったが、どう見てもヤギには見えない。ライオンというより、引き締まった筋肉のトラに近い。そして、尻尾は太くて長いヘビ。アオダイショウのように見える。……顔がないからわからないし、顔を見てもわからないが。
私の前では、白虎と同じくネコ科のようだ。
「じゃあ、お留守番よろしくね」
そういうと大人しく私から離れて、ダンジョンの外壁にあたる岩山に帰っていった。そこがキマイラの新しい家なのだ。
身体の周りを空気の膜で覆い、王都に向けて全速力で飛んでいく。何もいない空だからできること。音速( 秒速三百四十メートル )ではなく、光速( 秒速三十万キロ )で飛べるのはすでに実証済みだ。一時間で一万二千二百四十キロ。だいたい東京からグアテマラまで一時間で着いてしまう計算だ。
今は音速で飛んでいる。王都まで二十分。約四千キロの距離だ。サンフランシスコからニューヨークまでいくよりは少し近いくらいか。まあ、国の端から端まで離れているからねえ。……その点ではアメリカと同じか。
急にステータス画面が開いて思わず止まった。衝突を避けるために『索敵』の魔法を使っていたため、魔物が近くにいると表示されたのだ。
プカプカ浮かんだ状態で索敵の詳細を確認すると、魔物に襲われている隊商を見つけた。……この国のキャラバンではない。
「おー。アリじゃん。でも、なんでこんな場所にいるんだ?」
彼らがいるのは砂の上だ。いくら『砂漠のアリ』と名付けられていても、こんな温度差の激しい荒野には棲みつかない。名前の通り、砂漠に棲んでいるのだ。
「……手助けするか」
戦った記憶はないが夢で見たから弱点は知っている。
多勢に無勢の彼らに近付くと、馬車の御者台にいる男が私に気付いた。
「手助けは必要か否か」
「助けてくれ!」
「報酬として倒した分は私がもらう。可か?」
「可だ!」
開いたままにしているステータス画面の中央に【 緊急クエスト サンドアントの討伐 】と表示が出た。その下に【 受諾 】と【 拒否 】と表示されていて、受諾をタップする。【 承認しました 】と最終表示がでたことで、私がこの戦闘に手を貸すことが可能になった。
「全員、馬車に戻って。緊急クエストを受諾した」
「ああ、頼む。……え? キミ一人、なのか?」
私と御者台の人物とのやり取りが聞こえていたのだろう。助っ人が来たことは気付いていたが、私一人だとは思わなかったようだ。
「……さっさと引いてくれ。魔法を使うジャマだ」
「わかった。全員馬車まで撤退!」
素手の私に驚いていたが、『魔法を使う』と聞いて仲間たちに指示を出す。私たちの会話を聞いていたのだろう。誰もが私をチラリと確認するが、素早く馬車まで下がる。その間に、私は五十メートル先に砂の壁を作り出した。魔法を使ったら、際限なく飛んでいく。ダンジョンとは違い、放った魔法は勝手に消えないのだ。
「頼む!」
全員が馬車に避難したのだろう。男性の声がした。
『風刃』( 風魔法 )
『水刃』( 水魔法 )
『雷刃』( 光魔法 )
前方向に向けて、三種類の魔法をぶっ放す。背後で「おおお‼︎」という驚きか恐怖か感嘆か、判別し難い声があがった。
一度、この魔法を『風神』『水神』『雷神』でイメージしたら……。冗談抜きで私が立っている場所以外が『跡形もなく消え去った』。深く、そして広く、大地が抉られていたのだ。その後、ピピンに触手でペチペチペチペチと二時間ずっと頭を叩かれてお説教された。
「本当に危険なとき以外は使わない」
「使うときは一度に一つだけ」
そう約束して、ゆびきりもして、それでやっと許してもらえた。
78
お気に入りに追加
8,060
あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います
菜花
ファンタジー
ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました
毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作
『魔力掲示板』
特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。
平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。
今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

【完結】略奪されるような王子なんていりません! こんな国から出ていきます!
かとるり
恋愛
王子であるグレアムは聖女であるマーガレットと婚約関係にあったが、彼が選んだのはマーガレットの妹のミランダだった。
婚約者に裏切られ、家族からも裏切られたマーガレットは国を見限った。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。