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第七章
第228話
しおりを挟むダンジョン都市は王都から二十日以上かかる。にも関わらず、使者が水槽に入れられて五日後には駆けつけてきた。
「やればできるじゃん」
「本当にそうですね」
「エミリアさんの「サッサと『飛翔』で飛んでこい」を伝えました」
馬車に乗って魔法の『飛翔』をかければ空気圧を受けることはない。ただ、一人で何度もかけていると精神的に疲れてしまうため、数人でわけて魔法をかけてこればいい。という話はしたんだけど……ルレインがそれを伝えたらしい。
「ついでに「聖魔士くずれは、キマイラの就任祝いに与える」という言葉も冒険者ギルド経由で届けたと聞いています」
アゴールの言葉にルレインは頷く。
「当然です。彼がしでかしたことに関しての責任は、彼自身が責任を持って償う必要があるでしょう」
ルレインの言葉は正しい。だから誰も反論しない。だいたい、コルスターナから謝罪はきたが、以降は何も連絡がきていない。このままダンジョン都市に置いておく気はないため、王都に引き渡す気でいる。
「それで、王都からきた連中は何を言ってきたんだ?」
「まず、使者の解放」
「却下」
ルレインの言葉に私が即答すると「もちろんです」と同意した。
「そして聖魔士くずれの身柄引き渡し」
「却下」
「はい、檻を持ってきていません。それを理由に拒否したところ、「今使っている檻を提供しろ」と」
「こら、エミリア! どこへ行く気だ」
「ちょいと連中を追加で水槽に」
「いいから大人しく座ってろ!」
ダイバに腰に腕を回されて膝の上に座らされる。足をバタバタさせても膝から降りられない。
「エミリアさん。連中はみんなが楽しくボロボロにしている最中です。終わり次第、水槽の中に入れてください」
「じゃあ、もうそろそろ……」
「当分無理だ。回復魔法を得意としている奴がいるから、傷を受ける度に回復している。それで長引いているだけだ」
「……そいつら、バカなの?」
「エミリアさん。『バカなの?』ではなくバカです。バカに「自分はバカだ」という自覚はありません。究極のバカだと思い知るには、自らの失敗で死ぬ直前です」
「そいつはどうだろうな。死ぬ直前でも「こんなはずはなかった」とか「アイツのせいで」とか責任転嫁して死ぬと思うぞ」
アゴールの言葉にダイバが正しく指摘をする。
「さすがダイバだね」
「だろ?」
「ええ、さすが『同じ穴の狢』ですね。自分のことはよくわかる……」
「おい、アゴール! エミリア、なに逃げ出そうとしているんだ、お前は。しばらく離さないからな」
「やーん! 連中を沈めにいく~」
「ダメだ」
「ダイバのケチー」
「大バカはドケチー」
「ちょっと待て! シーズル!」
「大バカはド・エッチー」
「エミリア……。お前はちょっと黙ってろ」
ダイバの大きな手で口を塞がれて、ダイバとシーズルが言い合いを始める。スッとアゴールとミュレイが立ち上がると無言で後頭部に蹴りを入れた。
「「いい加減にしろ!」」
二人は前のめりになり……お互いの額を打ちつけた。
「あーあ」
「このまま放っておきましょう」
直前にルレインの魔法『瞬間移動』で引き寄せられた私は、ルレインの隣のソファーで二人が互いの副隊長に蹴られる瞬間を目撃した。そのあとはガッゴーン‼︎ という音が鳴り響き、二人は床に崩れ落ちた。二人とも竜人のため人より頑丈だから、特に心配はしていない。今もただの脳震盪で目を回しただけ。
そんな二人に一切の手加減をしない女性たちに笑うしかなかった。
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