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第七章
第227話
しおりを挟む王都から「聖魔士くずれの身柄を檻ごと頂きたい」と言ってきた。
「お断りします」
「お金ならいくらでも」
「却下」
私が拒否したのは『檻を寄越せ』という点だ。これはダンジョン都市の職人たちが作った大切な檻だ。最近は人間が入ることが多くなったが、従来は都市を襲った魔物を生け捕りにして収容する。魔物がダンジョン都市を襲うのは極めて稀だ。中には操られてということもある。だからこそ、できる限り生け捕りにして檻の中で落ち着かせる。ここの人たちはダンジョン以外に現れる魔物に寛大なのだ。
そんな大事な檻だからこそ断ったのだ。
しかし、王都からの使者は『聖魔士くずれを渡す気はない』と受け取ったようだ。
「寄越せと言っているのがわからないのなら、わかるまでその身体に言い聞かせてやろう」
そう言って、抜き身の剣を私に向けようとして……剣を自らの右足の甲に突き刺した。
「あ……? アギャァァァァァァ‼︎」
「あーあ」
「バカだな」
「自業自得だ」
屋台村の広場で取り囲むように立っている冒険者や商人たち、彼らから呆れた声が漏れた。それもそのはず。この都市の広場には悪意を持った状態で抜刀すると同時に全身に軽い静電気を起こす魔導具が設置されている。この使者はそれで剣を落としてしまったのだ……自分の足の上に。
「『わかるまでその身体に言い聞かせてやろう』って言ってたけど……。自分の身体を傷付けて私に言い聞かせるつもりなの? 前に自分の首にナイフを突きつけて騒いでいた職人希望者がいたよね~」
「そういえば、そんなのもいたな」
「ああ。まだ子供だったな」
「コイツって子供だったのか」
「……まだオムツしてる?」
「娘のお古だが、おしゃぶりをやろうか?」
使者は嘲笑う声に向けて涙目で威嚇するように睨むが効果はゼロだ。突き刺さった剣は抜かれず。時々、自身の動きで揺れる剣に「ヒィッ‼︎」と小さな呻き声をあげる。
ゆらゆら。ゆらゆら。
目の前で左右に揺れる剣を見ていると、ネコが猫じゃらしに飛びつきたくなる気持ちがよくわかる。
「……触っちゃ」
「やめてあげてください」
「ダメよ、エミリアちゃん」
都長のルレインに止められて、ミリィさんに後ろから抱きしめられた。手を伸ばしていたため、その腕ごと抱きしめて触らないようにされたのだ。
「じゃあ、足で」
「もう。エミリアちゃんったら」
届かない距離なのをわかっていても右足を伸ばすと、ミリィさんが苦笑してルレインには上げた右足をペチンと軽く叩かれた。
「エミリア。コイツをこのまま水槽に入れておいてくれ」
「それはいいけど……。一人だけ?」
「追加があるから心配するな」
「ほーい」
シーズルに言われて、檻の隣に水槽を取り出す。その中には塩水が七分目まで入っている。その上にダイバが使者を投げ飛ばし……どちゃあ、という音とともに水槽のフタの上に顔から落ちた。
「ギャァァァァァァ‼︎」
転げ回る使者。彼は顔面を強打したことで騒いでいるのではない。いや、それも痛いだろうが……。うつ伏せで落ちたことで剣の柄頭がフタに当たり、勢いそのままザックーッと足を深く突き刺していた。
「ダイバぁ。まだフタを開けてないよ~」
「悪い、悪い。フタがあるの忘れてた」
「ちゃんと確認しないからです。一度、ダイバも入ってきたらどうです?」
「追加でダイバも入るの⁉︎」
「入らん! エミリア、目を輝かせるな‼︎」
私たちの賑やかな会話に周囲も笑う。暗の魔法でフタを浮かせて斜めに傾ける。フタの上で転がっていた使者は塩水の中に滑り落ちて絶叫し、人々は雄叫びをあげた。フタを元に戻すと、絶叫は耳を澄ませても聞こえなくなった。
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