私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第七章

第210話

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「う……そ」
「これが…………ジュール様」

『聖魔士くずれを回収し隊』の彼らが目にしたのは、広場で公開されている檻の中ですでに人の姿を成していない半人半魔だった。顔はなんとか人間の姿を残していたが、すでにヒトとしての思考もない。全身が青く皮膚が鱗状に固くなり、尖った耳に尖ったアゴ。腕が倍近くまで伸びて四つ足となった……

「これが『聖魔士くずれ』の成れの果てだ」
「ジュール様は聖魔士だったはずです!」
「何故このようなお姿に!」
「そんなこと知るか! だいたいからこそ『道を誤った』んだろうが!」

私が怒鳴ると、さすがに問う相手が違うことに気付いたのか。騒いでいた人たちは唇を噛み締めて俯いた。

「『聖魔士くずれ』といわれるのは、本来は協力を求めるはずの聖魔を『無理矢理従わせる』ため、彼らの怨みをその身に受けるんだ。……本来の聖魔なら、自らすすんで協力してもらえるからこんなことにはならない」
「彼女に感謝しろよ。聖魔たちを無理矢理引き剥がして関係を切り離してくれたからこの程度ですんだんだ」

シーズルの言葉に異国の集団は耳を疑う。
『この程度』だと……? こんな半魔の姿をしたジュール様が……
そんな呟きをかき消すように、男が一人声を荒げた。

「ふ……ふざけるな……! このお姿で何が『この程度』だ!」
「そんなん、自業自得だろ」

私の言葉に激昂した男が駆け寄るが、直前で七色に煌く光の壁に阻まれた。同時に私を守るように白虎が横向きで前に立ち塞がり、ピピンが触手で男を打ち飛ばした。

「……テ、聖魔師テイマー様……」

女性の声が聞こえると、我に返った一行が一人を残し地面に平伏ひれふした。一人はもちろん、ピピンが倒した男だ。

ガァァァァァァ!

空から咆哮が聞こえて全員が空を見上げた。そこにいたのはキマイラ。その姿に一行は腰を抜かしてしまった。

「あの子は、そこのバカに無理矢理使役されてきた内の一匹だ。使役されるたびに向けられる怨みは蓄積されていく。その結果が『あの姿』だ。……それを自業自得と言わずしてなんという?」

妖精たちがキマイラのもとに向かった。別の場所へと移動させてくれるらしい。あれが威嚇であり、都市まちを襲いにきたとはここに住む人たちは誰も思っていない。私に懐き、喉を鳴らして甘えていた姿を見た人もいれば、情報部のニュースで知った人もいる。その上で『危険ではない』と理解しているのだ。
「エミリアがいるから大丈夫」という意見はない。私の聖魔たちが『誰かのため』に動くことがないのを知っているからだ。そして私自身も「おもしろ~い」という理由で、安全な場所から見学すると思われている。……まったくもって、そのつもりなんだから訂正する気は少しもない。
地べたに這いつくばって青ざめていた一行たちは、妖精たちと一緒に安全な場所へと飛び去るキマイラを震えながら見上げていた。

「聖魔士くずれが受ける魔物の呪いは、使役した魔物の数だけ受ける。使役する魔物の数が多ければそれだけ混在する。今回、使役されてきた魔物は六体。一番多かったのが、見た通りガーゴイル。そしてさっきのキマイラ。ウロコ状の皮膚は空魚バハムート」

彼らは震えながら、自分たちが『連れて帰るように命じられた相手』を見上げている。 
空魚バハムートの外見はクジラだ。何をどうやって使役できたのか。いや、バハムートは時々砂漠で砂浴びをする。その時を狙ったのだろう。
ちなみにドラゴンタイプのバハムートもいる。こちらは魔物で通称はティアマトと呼ばれる。空魚の方はルティーヤと呼ばれている。国によってはルティーヤを神獣や神魚として崇め奉っている。
彼らの国も同様なのだろう。「神罰……」という呟きが聞こえた。
妖精たちと遊びで空を飛んでいると、時々ルティーヤが寄ってくる。人懐っこく、妖精たちとも仲がいい。クジラというよりイルカのようだ。私たちを十メートルはある背に乗せて、周辺を回遊してくれることもある。

「さて、確認しようか。あの『聖魔士くずれ』を連れ帰るか置いていくか」
「……連れて帰り、ます」
「だってさ」

都長補佐に告げると、笑顔で頷いた。

「エミリアさん、ありがとうございました。では譲渡に関する手続きをお願いします」
「ありがとな、エミリア。また連絡する」
「了解。……ああ、『例の件』よろしく」
「わかった」

『例の件』……それはキマイラをダンジョン都市シティの守護者にすることだ。それだけで、このダンジョン都市シティの周辺に現れる魔物の数が減る。近隣の村もその恩恵を受けるため、この話を聞いた村々には喜ばれている。
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