193 / 789
第七章
第206話
しおりを挟む「な、なんでだ! なんで……」
地面でのたうち回って食いちぎられた腕を押さえつけて喚き散らす男。
「言ったでしょ、私の存在は『災害級』だと。この子につけていた『隷属のシルシ』は解除させてもらったよ。ああ、ついでに。他の子たちも出ておいで。こんなクズに従う必要はもうないよ~」
私の声に呼応するように、使役されていた魔物たちが姿を現した。この子たちにも『状態回復』の魔法をかけて自由にする。
『解除』でも『取り除く』や『削除』でもよかったのだが……。やはり、使役されている状態は異常だ。それを回復させた、つまり使役状態を解除させたのだ。
「さ、もう自由だよ」
魔物たちの頭を撫でてそう宣言すると、風の妖精たちが現れて全員を空中に浮かせてから四方八方へと飛ばした。
元の棲息地に戻したのだろう。
「よくも……! よくも……」
「次はアンタだよ」
「ふざけんな!」
「ふざけてなんかいない。このダンジョン都市に魔物を放ち混乱に陥れた罪は重い。これから『使役される側』になるのはアンタなんだ」
「この俺様に手が出せると思っているのか!」
「思ってる」
「俺は……」
「たとえ出身が他国だろうと、立場が王族だろうと。大陸法を破った罰は等しい。さらに、すべてにおいて『落ちこぼれ』が何を騒いでもムダだ。王族でいられず、国にいられず、聖魔士でいられず。……人間でいることすらできなくなった『落ちこぼれ』が」
「え……あ?」
移動用の見世物の檻が到着した。守備隊が運んでくれたのだ。檻の入り口が開かれると男を風の魔法で投げ込む。懇切丁寧に扱う必要はないだろう。入り口が閉じられると、中の様子が公開される。
「開けろ! 俺を誰だと思ってる!」
「バカだと思ってる」
即答した私の言葉に、緊張していた周囲の空気が一斉に笑いに変わる。中には外の様子も声も届かないため、自分がバカにされていることすら知らない。
「こんなの! 魔法でぶち壊してやる!」
そして、使った初級の火魔法。
「……訂正。バカじゃない。正真正銘の大バカだった」
火の対極は水。牢はバケツというより風呂の水をひっくり返したような量を男に落とした。一瞬で消える火魔法。
「クソッ! もう一度だ!」
今度は……
「あー……」
「バカだ」
濡れたまま使おうとしたのは雷の魔導具。
「ギャァァァァァァァァァァ‼︎」
さすがに諦めたのか、気力が萎えたのか。石畳の床に倒れたまま起き上がることもしない。
「エミリア。悪いが封印をかけてくれ。コイツを助けようとする不届き者が現れるかもしれないからな」
誰も口にしないが、頭に思い浮かべているのは一人。
「それって都長のことだよねえ」
口にした私に思わず頷いたり、苦笑したりと反応は様々だったが、誰も否定はしなかった。
封印だけでなく、守備隊以外が触れると感電して黒こげになるように手を加えた。光の妖精が私の店のノブに付与している『触ったら静電気でまっ黒こげ』をちょっと強化してみただけだ。ただし、死にはしない。その場で気絶してしまえば捕まえやすくなるからだ。髪の毛がチリチリになってまっ黒こげになるのも、言い逃れできないようにするためだ。こちらは火の妖精のお得意魔法だ。
「守備隊以外は触らないようにね~。他にも色々と私が楽しくなる細工はさせてもらったから……それでもいいなら触ってね~」
「……生命が惜しけりゃ、誰も手を出すなよ」
私の言葉を守備隊の隊長が通訳すると、周りにいた人たちが一歩二歩と後ろへ下がった。
85
お気に入りに追加
8,060
あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います
菜花
ファンタジー
ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。