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第七章
第202話
しおりを挟む新都長と都長補佐に変わって二ヶ月。
前任者が作り上げた制度は順調に起動しているようで、日次決算と月次決算は無事に受け入れられたそうだ。
収入から支出を引いた額が残金だとわかってから、一桁まで細かく記録するようになった。今までは一ジルや十ジルを切り捨てて記入していたこともあり、合計額が合わなくても「大したことではない」と思っていたらしい。
「よし。じゃあ、お前らの給料も切り捨てていいんだな」
ダイバがそういうと、一部の職員は失言に気付いたらしい。ちなみにこの世界は日給月給制。時給があり、それにあわせて日給が出されて、月ごとにまとめて支払われる。
時給が切り捨てられ、日給が削られ、月給が減らされる。
それをアゴールから懇切丁寧に説明された職員たちは、それでもまだ大きな問題だとは思っていなかった。
「もちろん、今まで同じことをしてきたし、『この程度のことは問題ではない』から構わないですね」
そう言って、今月分の正規の給料明細と減らされた給料明細を各自に渡されて、やっと理解できたようだ。
「「「すみませんでした‼︎」」」
全員が頭を下げて謝罪したが、アゴールは黒い笑みを浮かべて「いえいえ。無駄な支出が減るんだからいいことですね」と言い切った。
……と報告してくれたのは妖精たち。
《 面白かったよー 》
《 エミリアが言ったとおりだね。自分の身に置き換えないと理解できないの 》
ちなみにこの時は、罰としてひと月だけ減らされた給料が支払われた。いわゆる『減給処分』だ。二十万の給料が十五万近くまで減らされたのだから、職員の家族が騒ぎを起こした。素直に事実を話した職員の方が少なかったのだろう。
それに対して、ダイバとアゴールは連名で職員の不正を包み隠さず公表した。そうすれば、誰もが減給処分だと理解した。「給料の差額を寄越せ!」「不正だ!」と騒いで庁舎に乗り込んだ職員の家族は肩身の狭い思いをし、庁舎へ家族が乗り込んだ職員は針の筵状態になった。
その一件は情報部が大々的にニュースとして情報共有した。
それによって、さらに立場は悪くなった。しかし、別の言い方をするなら、信用を失った彼らに対する周囲の目が厳しくなったため二度と悪事は働けないだろう。
新都長と補佐の二人は、私への接触はしてこなかった。
《 っていうより、店の周りに彷徨いていたから庁舎まで吹っ飛ばした 》
《 今は便利だよね~。吹き飛ばすだけでいいんだから 》
「みんなが吹き飛ばすようになったから、庁舎やギルドに網の魔導具が設置されるようになったんじゃない」
そう。店の前や私の周りに集まる連中を妖精たちが吹き飛ばすため、庁舎と三ヶ所のギルド、そして商業地区の守備隊と警備隊の詰め所。合計六ヶ所に設置された大きな網の魔導具。それは妖精たちに吹き飛ばされた連中を安全に捕獲するためだ。妖精たちは一応安全のために、反射がついている屋根をクッションにしてから地面に『べちゃあー』と叩きつけていた。
《 痛い思いはしても、ケガはさせてない 》
そう、胸を張り自慢する妖精たちに苦笑するしかない。それには、私から話を聞いたトップの人たちも苦笑いしかできず。そして、施設には魔導具が設置された。
出かけた都長と補佐が妖精の魔法で空を回転して戻ってこれば、そりゃあ問題になる。直接的な接触はなかったが、私との接触を目論んでいたのは情報部のニュースとなり拡散された。そして『警備部第一班』までが白い目で見られた。
未遂ということで大きな罰を受けずに済んだが、全員に向けて謝罪することになり、その謝罪映像は情報部から拡散された。
以降、彼らの行動は休日でも見張られることとなった。何より、商業地区の警備も守備隊の警らも私服守備隊の警備までが厳しくなったことも彼らを大人しくした大きな要因だろう。
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