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第七章
第198話
しおりを挟む「あー、え……っと。まあ、みんなにここへ集まってもらったのには……うん、まあ、その……理由があってな……」
歯切れの悪いダイバに、会議室に集められた二十七人のうち十九人から失笑が漏れる。しかし、彼らと同席している八人の上司は、そんな彼らをひと睨みして黙らせた。
再び静まった室内に、今度はアゴールの声が響く。
「ここに同席して頂いた上司の皆さんにはすでに話は済んでいます。ですが、確認も兼ねてお聞きいただきます」
そして証拠を提示しながら始まった、これまでの悪事の数々の追及。言い訳しようと思っても、動かぬ証拠を突きつけられたらそれも叶わず。せめて道連れとばかりに、一緒に悪事を働いている仲間たちの名をあげて「自分だけじゃない」と猛アピール。そうすれば罪が消える。『みんながやっていること』だと強く主張すれば罪自体が消える。そう信じているようだ。
……そんな主張が通れば、そもそも上司同席による叱責の場が作られることなどなかっただろう。
「自己主張はそれで終わりですか?」
黙って聞いていたアゴールの感情を抑えた声が、静かになった会議室に広がる。顔を赤黒くしながら自分たちの正当化を主張しまくり、彼らが罪状と罪人を増やすたびに青ざめていく上司たち。半分、魂が抜けている上司もいるようだ。
「ねえ、自分たちが今何をしていたかわかってる?」
私の声に、全員の目が私に集中した。
「エミリアさん。あなたはダンジョン管理部と一切関係ないはずですよね。何故ここに同席しているのですか」
「部外者は出ていってください」
「あのさ。そこにある証拠の数々、誰が集めてきたのかわからないの? 倉庫や書庫に隠してあったんだよね? この中のいくつか、自宅に隠していたものもあるんじゃないの? それが何故ここに揃っているのか……本当にわからないの?」
私の言葉に、職員たちは力なく項垂れる。隣に座る上司よりさらに青白い顔色になった者すらいる。
「もうひとつ言うと、私の前にあるのは『記録用の魔石』。これで、この会議に部外者の私が立ち会っている理由がわかるよね?」
重要案件の場合、のちに権力や圧力による改竄が行われることがないよう部外者が立ち会う。さらに記録用の魔石には『立ち会い証明』として、その部外者が魔力を流して起動させる。
この時に録音された内容は十分な証拠となる。
「皆さんが挙って新たにしてくださった証言は立派な証拠です。まだし足りない証言はございませんか? 今さら隠しても意味がないですよ。まあ、すでに手遅れです。逆に更なる罪が発覚すれば隠匿で重罪になります。黙秘も通じませんよ。『誰が協力者』なのか、よく考えなさい」
アゴールの言葉で全員の目が私に向けられる。しかし、私を見ているのではなく、妖精たちを思い浮かべているのだろう。アゴールの前にだけ置かれていた証拠が、今はダイバの前にも山積みされている。本人たちがこの会議室にいるため、現在進行形で重ねられている罪の証拠を持ち込んでいるのだ。
この場をアゴールに任せたダイバは、その一つ一つに目を通して細く切った紙を挟んでいくと、アゴールの前に積んでいく。
証拠の数々が増えていく『その意味』が、彼らを二度とこの平和な世界に戻れない恐怖の世界へと誘っていた。
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