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第七章
第193話
しおりを挟むダイバが戻ってきた時に四人が一緒だった。コルデさん、キッカさん、エリーさん。そしてミリィさんだった。
「エミリアちゃん。ルーバーが色々作ったから持ってきたわよ」
「ありがとう。ミリィさんも一緒に入って」
「お邪魔します」
ミリィさんの言葉が副音声でも聞こえたぞ。まあ、私のところへ来る理由になるからいいけど……
「エミリアちゃん?」
「アゴールが妊婦だということを自覚してなくて、今朝も階段を駆け上ったり飛び降りたりしてたの。今日は試作品を渡したんだけど『エルフの祝福』のことを聞いて修正したくて」
そう言いながら、裏口の扉を閉めて鍵をかける。同時に結界が張られたことを確認した。
「ちぃちゃん。結界の強化を」
《 わかった 》
地の妖精が店内を一周すると金色に光って結界が強化された。同時にパリンッと高めの音が鳴り、エリーさんが身につけていたアクセサリーが砕け散った。
「え⁉︎ なにが……」
エリーさんたちが驚きで声を失う。
「エミリア……つけられてたのか?」
「うん。ついでに、あれは盗聴用だね。……起動前だったけど」
ダイバの見張りの場合、ダイバの行動を調べて『犯罪がバレていないか』を知るためか。ダイバが庁舎に戻る前に犯行を隠す必要があり、外部の仲間がダイバの行動を庁舎にいる仲間に連絡するためにつけているか。
何にせよ、私の店に入った時点で追跡は不可だ。客として入った奴が、私の目を盗んで魔石を店内に残そうとしたものの、収納ボックスの中に入っていた魔石すべてが破壊していた、ということもある。
私の店に入った時点で魔石が壊れることは、追跡者も理解しているだろう。
《 つけてきた奴どうする? 》
「見張ってて。誰をつけてきたのかと、見張りの目的を確認したいから」
《 わかった。それでエミリア…… 》
地の妖精がもたらした情報の確認を頼んでから応接セットに向かう。すでにダイバに促されてソファーに座っている四人。ダイバは床に胡座をかいて座っていた。
「エミリア。妖精は何だと?」
「それより、ダイバは説明は済んだの?」
「ああ。それで……おい、エミリア。俺にもイスをくれ」
「自分のは?」
「アゴールが持ってる」
「はい。使用料は肉体労働でよろ」
「おい」
「……よ~く働けよ。アゴールとお腹の赤ちゃんを守るために、な」
私が提示した対価の理由に気付いたダイバが真面目な表情になり「もちろんだ」と返してきた。
「ダイバ。あなた、どっちが『本当の顔』なの?」
エリーさんが戸惑いを含んだ声で聞く。
「どっちと言われても……」
「どっちもダイバ、だよね」
私と顔を見合わすダイバは困惑顔だ。本人は公私を使い分けているだけなのだ。
「公私って……。じゃあ、都長のダイバは何なの」
「何なのと言われても……」
「エリーさん。ダイバにとって『仲間を守る』のが一番。そのために隊長となり、都長となり『守れる立場』を築いてきた。そのために『警戒されない態度』も身につけた。……ただ、それだけだよ」
「エミリアさんは、どこまでご存知なんですか?」
キッカさんに聞かれて「大まかなところは」と答える。
「私が『他国を渡ってきた』ことを知って確認にきた。まあ、聖魔師という立場もあったから、その確認としてきたんだけどね。その時に私とは契約した。私は都市で守ってもらうこと。ダイバは妖精たちに守ってもらうこと。今朝も妖精たちに雑に扱われることで、ダイバが私の店に無理矢理連れてこられても周りも「またか」で済まされてる。……そうでしょ? ミリィさん」
「そうね。さっきも私の店に来たダイバがエミリアちゃんの店に『連れ戻される』のを客は「またか」と笑っていたわ」
「ああ。そうするように頼んだのは俺だ。まあ、今朝のは昨日の一件があったからだと思っていたが」
「ダイバを庁舎から不在にすることで連中の気が削がれる。それに妖精たちが動きやすくなる。というのも、二人一緒に庁舎を離れているだけでは逆に警戒するようだからね」
私の説明にエリーさんたちは黙って頷いた。
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