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第七章
第190話
しおりを挟む「なんや、今朝の目覚ましはエミリア特製やったんかー」
厨房から出てきたシューメリさんが豪快に笑う。シューメリさんはアゴールの実母、ダイバにしてみれば『嫁の母』だ。
「母さん。笑いごとじゃ……」
「なあに、言ってるんだい。昨夜のバカ騒ぎを忘れたかい。エミリアちゃん。ダイバたち男連中は昨日、酒をかっくらって床で豪快に寝てたんだよ。それこそ、今朝起こせるか店が開けられるかって心配になるくらいにな。それをいい時間にあっさり起こしてくれたのが『エミリアちゃんの目覚まし』さ」
ありがとよ、と豪快に頭を撫でられた。
「そういえば、コルデ。お前さんとオボロは加減を知っているようだね。連中と飲んでいても何ともないようだ」
「ん? ああ。以前、事情があってうちのパーティに身を寄せてた子がいてな。その子がいた頃に違法薬物を使った事件と食中毒事件が起きたんだ。まあ、どっちもその子を攫うために起こされたんだが……。そのことがキッカケで、その子が俺たち関係者全員に『毒素中和効果』を持ったアクセサリーをくれたんだ」
俺はこのネックレスだ。そう言ってコルデさんは首元を下げて全員にチェーンネックレスを見せた。ネックレスには指輪も通してある。
……あれは私が作ったネックレスと指輪だ。
それに気付いたが、今までのように『記憶があふれて倒れる』ということにならなかった。
《 あれからまだ数時間だもん。神もさすがに手を出してこれないでしょ 》
《 みんなで相談してね、沈める大陸を決定したよ。エミリアに手を出した時点で、前に貴族たちが商人たちを使ってエミリアに手を出したことでお城を砂にした大陸を沈めることにしたんだ。ここから一番遠い場所だから、沈んでも問題ないよ 》
《 どこを沈めるって決めておけば、こちらも本気だってわかるでしょ 》
涙石から、光と地の妖精たちが事後承諾を伝えてきた。
《 ねえ、ところでアゴールって…… 》
「え? あ、そういえば……」
「エミリアちゃん? どうしたんだ?」
「ああ、エミリアには妖精たちがついていて、ああやって話をしてるんだよ」
私を心配してそばにいてくれるアゴールを見上げて、風の妖精から聞いたことを口にする。
「アゴール。今日はお仕事休み?」
「……え⁉︎ あああ‼︎ 母さん、いま何時⁉︎」
「アゴール。風の妖精が『慌てなくても安全に送っていくよ』って」
「ありがとう、エミリア! すぐに戻る!」
アゴールはそう言い残すと階上へと身をひるがえした。
「慌てないでいいって言ってるのに……。ねえ、フーリさん。あんなにバタバタ走ってて、お腹の赤ちゃんは大丈夫なの?」
そう。私がアゴールが怒りっぽいのは妊娠五ヶ月だからと指摘したことで、ダイバはアゴールを抱えて仕事放棄。今朝は今朝で、前日に放棄して溜まっただろう仕事を片付けるために早く出勤しようとしたアゴールと、過保護にもそれを止めようとしたダイバで大騒ぎになっていたのだ。
「大丈夫だ。エミリアちゃんが教えてくれたおかげで『エルフの祝福』をもらえたからな」
「エルフの祝福……? エリーさんに?」
「ああ。エルフの祝福を授かれば、必ず無事に生まれる。どんなに親がそそっかしくてもな」
「……それって、誰かの悪意もはね返せる?」
「ん? それはどういうことだ?」
「アゴールもダイバも、結構人気あるんだよ。それで『既婚者を別れさせたい』とか、アゴールの場合『同性の自分を恋愛対象にみてほしい』とかで、『そんなアイテムを内緒で作ってほしい』と言われるんだ。もちろん断ってるけどさ。それが『妊娠した』って知られたら……ただでさえ過激な連中もいるんだから。「わざとじゃないんですぅ」って言いながら泣きまねして……」
「……心の中で舌をだして笑ってるってことね」
私が言葉を区切るとシューメリさんの目が据わり、開店前のため店内でくつろいで私たちの様子を見守っていた全員が一瞬で殺気を含んだ。
「そういうこと。今日は妖精たちがガードしてくれるらしいから大丈夫。でも『いつまでも』ってわけにはいかないよ」
「ああ、わかった。エリーに確認しておく」
コルデさんがそう言ってくれたと同時にダダダダダーッという音が響き、アゴールが階段から身を躍らせて着地した。
同時に大きなまま飛び出した白虎の尻尾がアゴールを吹き飛ばし、風の妖精が優しい風で受け止めた。
周囲はともかく、目を丸くしているアゴール本人もなにが起きたかわかっていない。
「アゴール。いくら『エルフの祝福』があるって言っても、今は『自分だけの身体ではない』でしょ? これじゃあ、ダイバを説得するよりアゴールをどうにかした方がいいかも」
「え? ……ちょっと待って」
私の言葉にようやく『自分が妊婦』だということを思い出した様子のアゴール。そして、私の言葉で『自分は家に閉じ込められる』と勘違いしたようで慌てだした。
「はい、アゴール。試作品のテストをよろしく~」
「え……? な、なに?」
「だから、試作品のテスト」
そう言いながら、アゴールの許可なく利き手とは逆の左手首に細いリングを通した。すると手首にシュルンッと巻きついて不可視化状態になった。
「……エミリアさん。これはいったい」
「ん、簡単なものだよ。アゴールが何かしようとしたら、ちょっとした静電気が起きるの。あー、大丈夫。お腹の赤ちゃんに刺激がいくわけじゃなくて、手首に指が軽く弾かれたような小さなものが走るの。でも、緊急性がある場合は針を刺したような痛みが走るから注意してね」
私の説明にコクコクと頷くアゴールは真剣な表情だった。
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