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第六章
第187話
しおりを挟む「おつかれ。どうする? どっかのダンジョンでリフレッシュしてくるか?」
ダンジョンの情報を関所で提出すると、スワットから労いの言葉を送られた。
「うーん。帰ってテントの中で休むよ」
「ああ。じゃあ、ダンジョンの情報を精査し終えたら連絡するからな。面倒だけど、その時は庁舎まで来てくれよ」
「わかった。……起きてたら」
「そう簡単に精査は終わらないし、七つのダンジョンすべてが終わるのは半年……いや、ダンジョンの出現には条件があるんだったな。だったら一年はかかると思うぞ」
「……その頃には忘れてたりして」
「……エミリアにはしっかり者のピピンたちがいるから大丈夫だろ」
「うー……。そこで否定できないし『私だってしっかりしてる!』って言えないのが悔しい」
私の言葉に苦笑するスワット。情報部から経過報告も出してもらえるらしいので、よほどのことがない限り覚えているだろう。
……周りの人たちとピピンたちが。
久しぶりのダンジョン都市だったが、家に帰る前にミリィさんとルーバーさんに会いに行ったら、エリーさんと『鉄壁の防衛』の皆さんが来ていた。
「おかえり、エミリアちゃん」
「ただいま、ミリィさん。ルーバーさんも差し入れありがとう」
「ちょっと休んで行け。どうせ家に引きこもるんだろ? 数日分のメシを作ってやる」
「わーい。ありがとう」
この都市では冬季でも閉店していない。しかし、今日は定休日だったため、エリーさんたちがお店を貸し切った状態になっていた。
「エミリアちゃん、久しぶり」
「お久しぶりです。色々と大変だったみたいですね」
「うん。ちょっと遊びに行っただけなのに、ダンジョンが口を開けて待ってたよ」
「どんなダンジョンだったんですか?」
未発見のダンジョンは今では珍しく、誰もが興味津々のようだ。
「まず、ダンジョンに入るための条件があってね」
そう言って、ピピンから『疲れているんだからもう休みなさい』とストップがかかるまでの間ずっと、『不思議な水のダンジョン』の話をしていった。
ダンジョン管理部の調査隊が、ダンジョンの調査と灯りの魔石や転移石の設置に入れたのは、調査が始まってから五十日後だった。ダンジョン出現の条件が噛み合わないのも理由の一つだが、『水の中のダンジョン』まで簡単に辿り着けなかったのが大きかった。
「条件があえば、砂浜とダンジョンまで海の道ができる」
まず、その時点で大きく間違っている。
調査隊の考えていた通りだったら、今までも条件があえば『モーセの十戒』のように左右に海が割れて発見されていただろう。
さらに、遺跡まで辿り着けても『地下一階へ続く階段が見つからなかった』。それも条件の一つとしてちゃんと伝えたが、軽く見ていたのかスルーされていた。
これらにはアゴールだけでなくダイバも激怒していた。この条件は『妖精から齎されたもの』だったからだ。
「エミリアが妖精たちから聞いた情報を提供されたにも関わらず、それを軽視するとは何事だ! 調査する気はあるのか‼︎」
「受けた情報を自分勝手な考えで破棄するようなバカは調査隊でいる必要はないですね。あなたたち全員、調査隊を解雇します。お疲れ様でした。今後は『誰かが安全を確保したアトラクション』で探険ごっこをしていなさい。エミリアさんは最初の攻略者です。それも七つのダンジョンすべてで完璧な地図の作成をしてきてくれました。そんな彼女の言葉を信じないのなら、彼女の作成した地図も必要ないですよね。あれにはちゃんとワナの位置も注意すべき事項も記載されています。さらに、必要最低限のアイテムや装備に必要な理由も書かれているにもかかわらず、それすら用意していないとは。調査隊が調査を甘く見て全滅? そんな恥さらしなど調査隊にもダンジョン管理部にも必要ありません。条件があわなくてダンジョンが開かなかった? 元々の条件が間違っていました。不適合者の集まりにダンジョンが受け入れてくれるわけがない。ああ、ムカつきましたか? じゃあ、今からダンジョンに入って死んできなさい。あのまま入っていれば翌日には間違いなく死んでいたんです。死にたかったんでしょ? 止めませんよ。すでにダンジョン管理部とは無関係です。死体はダンジョンにのみこまれるんです。恥さらしな顔を晒さずに済みますから、心おきなく安心して逝ってきなさい」
この映像は情報部で公開された。彼らは家族から責められ、仲間たちからバカにされて肩身の狭い思いをしていた。冒険者だった元隊員は再び冒険者の道に戻り、そうじゃない者も初級冒険者として有料のダンジョンに入って人前から逃げた、というのは情報部からの追加情報。
高給職である以上、自らの怠惰で起きたミスに対して厳しい評価を受ける。それも、彼らの中には『ただいまバカンスなう』に似たチャットをもらった知り合いもいた。その人が詳しく聞いたら、『仕事と称して浜辺で遊んでいる』とのこと。
……これがダンジョン管理部に届き、彼らは強制退場で呼び戻されたのだ。
彼ら調査隊はダンジョンに入る前に私から提供された地図などの情報を登録した魔石を与えられている。それで必要な道具や魔物の情報を確認するのだ。
それを怠って約五十日間遊び暮らしていた彼らは、私に高額な慰謝料を支払うことになった。彼らの調査が終了しなければ私に報酬が支払われない。遊んで過ごした日々のせいで調査が遅れたのだ。もちろん、新しく見つかったダンジョンの詳細を早く知りたい冒険者たちは彼らを責め立てた。
……元調査隊隊員はそれらから逃げ出した。
それを無責任ととられて、罰として慰謝料が支払われることになったのだ。
「だ~か~ら~。私は別にお金はいらないって言ってるのにぃ」
「だから連中には素材集めを慰謝料に指定した。もちろん鉱石などで規定より不純物の少ない『価値のあるもの』だ。それなら金よりもらう価値があるだろ?」
「仲介はダンジョン管理部と冒険者ギルド。逃げれば借金奴隷として売り飛ばす。もちろん、月単位で支払う最低金額を設定した。それが守られなくても借金奴隷だ。ダンジョン管理部に泥を塗ったヤツらがこのダンジョン都市から逃げ出せると思うなよ。簡単にダンジョンで行き倒れたら、家族にもバカ仲間たちにも慰謝料の支払い負担が背負わされるんだからな」
あーあ……。一番、敵に回してはいけないアゴールを怒らせちゃってるわ。
「アゴールのやつ……。最近、怒りっぽくなったんだぜ」
「そりゃあ、そうでしょ」
私が『その心当たり』を話すと、二人とも驚き……ダイバがアゴールを抱えて飛び出していった。
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