私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第六章

第183話

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白虎の背中で休憩して、白虎の背と尻尾のモフモフにいっぱい甘えて癒してもらった私は、広場にたどり着いた頃には元気も体力も復活していた。だからといって、過保護な仲間たちが先に進む許可を出してくれるはずもなく……

「白虎ぉー。みんながイジメるぅぅぅ」

テントの草原の庭で大きくなった状態で横になっている白虎のお腹に泣きつく。

《 人聞きの悪いこと言わないで! 》
グルル……

風の妖精の言葉に白虎が唸る。そして、尻尾で慰めるように背中をポフンポフンと優しく叩いてくれた。

《 もう…… 》
《 こんな簡単に寝ちゃうくらい疲れているのに、先に進めるわけないじゃない 》

白虎が尻尾で優しくエミリアをくるむと、たちまち静かな寝息が聞こえてきた。白虎が風の妖精に唸ったのは『静かにして!』という意思からだ。エミリアを寝かせるのに、周りが騒いでいたら……それもエミリアに話しかけていたら、いつまでも寝かせられない。それに気付いて、妖精たちも黙って白虎に任せたのだ。

《 エミリアは、昼まで浜辺で遊んでいたことを忘れてるのよ 》
《 忘れたというより、誰も知らないダンジョンを見つけて興奮してるんだわ 》

それはみんなも同じだ、と白虎は思ったが、鳴いてエミリアを起こしてはいけないと我慢する。その様子に気付いたピピンは白虎の頭を撫でた。


グゥゥゥーとお腹が抗議して目を覚ました。同時に、今いる場所がテントの寝室だと気付く。大小様々な『お腹の合唱』は、そのまま目覚ましとなり、みんなが目を覚ましていく。

《 おはよう、エミリア 》
《 おはようエミリア。あ~、お腹すいたぁ 》
《 お腹がすいたって鳴ってるー。あ、エミリア。おはよう 》
「おはよう、みんな」

また、私が寝ちゃったから、みんなも夕飯を抜いたんだな。私が寝てても食べていいよって言ってあるのに……

「さ、起きよっか。今朝は何が食べたい?」
《 目玉焼きとトースト! 》
《 ヨーグルトにフルーツ入れて! 》
《 サラダもつけて~ 》
《 オレンジジュースも 》
「じゃあ、みんな頑張ってね~。さ、私は二度寝~」
《 ダメー! 》
《 ほら、エミリアも起きて 》
《 起きないとダンジョンを探検できないよ 》
「朝ごはん作ってくれたら起きる~」
ガウ

白虎が鳴いて顔を舐めて起こそうとしてくれる。

《 エミリア。白虎が『ダンジョンの中では背中に乗せて運んであげるから今は起きて』だって 》
「んー。白虎ぉ、抱っこ~」

私がそう言って両手を伸ばすと白虎が顔を近付ける。そのまま私が白虎の首に手を回すと、そのまま下がって私の上半身を起こしてくれる。
ちなみに、これが家の中なら白虎が途中でポフンと力を抜いて私に寄り添い、一緒に二度寝に突入する。でも今日はダンジョンの中だ。体調が悪くなければ白虎は起こす。

「ありがとう、白虎」

お礼を言って白虎を撫でる。ゴロゴロゴロゴロと喉を鳴らす白虎の様子が可愛い。

「白虎、カワイイ~!」

首に抱きつくと白虎と一緒に再びコテンと横になる。白虎も嬉しそうに大きな尻尾で私をパタパタ叩く。

《 コラ! 二人とも! 》
《 いつまでじゃれあってるのよ 》
《 みんな~。ピピンとリリンが朝ごはんを用意してくれたよ~ 》

ピピンとリリンなら料理もできる。しかし、今朝のリクエストは以前私が作りおきしたもので、時間停止の魔導具がついている貯蔵庫に入っているものばかりだ。あとは冷蔵庫にあるジュースとヨーグルトを入れるだけだが、暗の妖精が一緒だったなら適量を器に盛ってくれている。

「クラちゃんもおいで~。お手伝いありがと~。お礼に一緒に二度寝しよ~」
《 もう! エミリアったら 》

無防備に近寄ってきた暗の妖精を抱き込んで、頭をナデナデする。そして、そのまま白虎のモフモフに一緒に埋もれる。

パパパパーンッ

ピピンの触手の音がしたと同時に、ミントの香りが近くから漂ってきた。リリンが私を目覚めさせるために香りを送ってくれている。

「おはよー、リリン」

完全に目が覚めてリリンに挨拶して身体を起こす。
今朝はレモングラスの香りだった。料理やハーブティー用に育てているのだが、蒸留でとれる精油は鎮静剤や殺虫剤にもなる。

《 エミリアの周りに集まるバカたちに使ってやりましょう 》

液状の殺虫剤を作った際に、妖精たちがそう言った。手元に置いてると危険だったため、すぐにポンタくんに送り、効果を確認してもらった。「虫によく効く」と知って大喜びしたのは妖精たちだ。すぐに「人間が気化した薬剤を大量に吸い込むと死んでしまいますよ」と注意してくれたため、妖精たちは使用を諦めてくれた。これはスプレー容器に入れて使われる。ガスを使っていないため近くで火を使っても爆発はしない。
今、温室にはメリッサ……別名をレモンバームというハーブも育てている。こちらも料理やハーブティーに使っているが、ポンタくん曰く毒消しの効果があるらしい。初心者のダンジョンで現れるドブネズミが吐き出す毒を吸ったり手足にかかってかぶれた時の治療薬として人気があるらしい。毒蛇など毒を持っている魔物も多い。そのため毒消しは人気のようだ。

「おはよう、ピピン。リリンと一緒に朝ごはんを用意してくれてありがとう」

そういうと、ピピンはリリンの隣に並び、笑顔で上下に揺れた。
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