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第六章
第182話
しおりを挟む石造りの建造物の内部は『不思議』でできていた。石畳でできた水の中にあるダンジョン。壁も石でできているが、大きな窓枠があって外……つまり水中が見えるため圧迫感はない。
窓枠があるものの、ガラスなどがはめ込まれているわけではない。水自体が窓枠から内側に入って来ないのだ。だからといって、膜が張られているわけでもない。すでに窓枠の外の水に手を突っ込んで触れた私がいうのだから間違いない。私が手を水に浸けて遊んでいたため、他の妖精たちもマネをして水の中に手を入れて遊び始めた。
しばらく遊んでいたら、近付いてきた白虎の背に乗ったリリンが触手を伸ばして私も乗せられた。そして白虎が数歩離れると背後からものすごい音と共に騒がしくなった。
ぶうん!
バチンッ
《 キャー! 》
ぶうん!
バチンッ
《 イヤー! ごめんなさーい! 》
とっさに振り返ろうとした私だったが、白虎が角を曲がってしまったため、見ることはできなかった。角を曲がっても届くみんなの叫び声、というか悲鳴、というか……謝罪?
白虎から降りて見にいくという手段は、リリンが触手で私の腰に巻きついて動かないようにしているため却下されている。
《 みんなはね、ピピンが『先に進む』と言っても遊んでいたから怒られているの 》
「あれ? そんなこと言った?」
私にはピピンたちの声がわからないため、妖精たちの通訳が必要だ。でも、遊んでいたからそんなこと言っていたなんて知らなかった。
《 みんな、聞いてなかった。だから誰もピピンの言葉をエミリアに伝えていない 》
「だから、みんなは怒られているのね。……私は?」
《 エミリアは『言われてない』から。私がエミリアに伝えようとしたら、ピピンが『エミリアに事情を伝える必要がある』って。だから…… 》
たしかに、リリンと白虎だけでは私に事情が伝えられない。その通訳役として、ピピンが水の妖精を選んだのだろう。
《 すでにこの先の階段まで確認済みだよ。ピピンの話だと、ここはまだ入り口で、階段から地下へ降りていくと地下一階なんだって 》
ピピンは階段を降りずに待ってて、と言っていたそうだ。
「私、遊んでたのに……」
《 ピピンは、みんなが声をあげて遊んでいても魔物が寄ってこなかったから調べに行ったんだよ 》
「私、そんなこと気にしないで遊んでいたのに」
《 いいんだよ。エミリアは不思議だったから興味を持ったんだもん 》
「でも……聞けば教えてくれたでしょ?」
《でも、ピピンは『実際に触って試してみることは大切』って。そうじゃなかったら止めてるよ。リリンが『もしエミリアが聞いていたら、ピピンは窓に連れてって実際に触らせてた』だって 》
リリンに目を向けると、リリンは頷くように上下に揺れる。そういえば、記憶をなくした私が何かに興味を持つと、危なくなければ実際に触らせてくれた。手がかぶれるような植物でも、アク抜きしないと美味しくないグミみたいな果物でも。
そして、ちゃんと回復をしてくれる。実は、植物に特化したリリンが止めるのだが、私に覚えてもらうためとの理由から、ピピンはなんでも試させているのだ。
ちなみに妖精たちは詳しくわかっていない。そのため、私以上の衝撃を受けている。
《 みんな……大丈夫? 》
階段の前に到着してしばらくしたら、みんなが合流した。私は、横になった白虎のお腹にもたれてうたた寝中。
《 エミリア、大丈夫? 》
「ね~む~い~」
《 ここで休む? 》
地の妖精が提案してくれたが、バチンッという音がした。ピピンが触手を床に打ちつけたのだろう。
《 エミリア。ピピンが『一階の広場で休憩する』って。だから起きよ? 》
うたた寝ほど起きられないものだ。意識は起きていても身体は寝ている状態。
「起きらんな~い」
《 大丈夫? 》
ガウ
寝そべっていた白虎が身体を伏せの状態にすると、その背に乗ったピピンが私の身体を触手で乗せてくれる。
《 色々魔法を使っていたから、疲れちゃったのね 》
「うぅぅー。意識は起きているのに身体が動かな~い」
ガウッ
白虎が鳴いて階段を降りていく。「行くよー」ってことだろう。
「あれぇー?」
《 どうしたの? 》
「アレって……水だよねぇ」
踊り場から上を見ると、なみなみの水が窓と同じように階段口を覆っている。
《 エミリア。あそこにいられるのは長くなかったの 》
「ん? 水を避けて空間を作ってくれていたってこと?」
《 違う。あそこは時間によって水が覆ってしまうの。だから、魔物がいなかったんだと思う 》
「水の満ち引きで入り口が現れるようなもの?」
《 そうね 》
「不思議空間だねえ」
私が見ているため、白虎は足を止めて待ってくれている。
《 エミリア。そろそろ行ってもいい? 》
「うん。白虎、ありがとう」
ガウ
私がお礼をいうと、白虎が鳴いて階段を降り始めた。
「ねえ、あのお水が『ザッパーン』って」
《 こない、こない 》
《 入ってきても守ってあげるから心配しないで 》
「でも、さっきまで窓で遊んでいたけど、なんともなかったのに」
すっかり身体も起きた私は、白虎の背で寝転がったまま白虎の背のモフモフを撫でている。白虎も大きな尻尾で私の背を撫でてくれる。
《 実はね。一度外に出てから入ったときの方が、最初に入ったときより湿度が高くなっていたんだよ 》
「……それで?」
《 うん。最初に気付いたのはリリンだけどね。湿度が高くなってて、エミリアが水分不足になってないか心配してくれたの。それで私とピピンも異常に気付いたの 》
「そうなんだ……。ありがとう、リリン」
リリンにお礼を言って頭を撫でると、リリンは嬉しそうに左右に揺れた。
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