私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第六章

第180話

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ハーッと息を吐くと白い息が見える。ダンジョン都市シティに冬が近付いているのだ。ここでは冬でもダンジョンは開放されている。雪は降らず、気温だけが下がっていくからだ。マイナス四十度まで下がるため、冒険者たちは一定温度をたもつダンジョンに逃げ込むか家に引きこもる。

「ダンジョンに入っても、滞在期間が決められているから時間になれば追い出されるだけだがな」

そして、強制退去させられた冒険者が関所ゲートで騒ぎ、罰として関所ゲート前の広場で片手ずつにバケツをぶら下げた状態で壁際に並んで立たされている。小学校で忘れ物をした生徒の罰の一つとして見られていた光景だ。ちなみに、私が来る前……すでに三百年前から行われている罰らしい。そして彼らは首から『私は冒険者ギルドのルールを破って騒ぎを起こしたバカモノです』という札を下げて台に乗せられる。
にすることで、ベテラン冒険者たちに顔を覚えてもらう目的も含まれている。そうすることで、初心者マークをつけた彼らがダンジョンの内外で問題を起こしたときにベテラン冒険者たちからフォローしてもらえるようになる。そうやって孤児から冒険者になった子供たちは、周りに見守られて成長していく。
それが、ダンジョン都市シティで秋から初冬にかけてみられる風物詩めいぶつとなっている。


「今日は何人が立たされているんだろう?」
《 昨日は十一人いたね 》

私たちはそう話しながら関所ゲートへと向かう。
昨日はダンジョンの情報をもらいに行っていた。冬はいつも以上に温暖なダンジョンに潜る冒険者が多いのだ。それも長時間入り続ける冒険者もいる。もちろん、弱い魔物相手に鍛錬をするための冒険者もいるが、ほとんどは『寒さよけ』だ。
昨日は関所ゲートに十一人が立たされていたのだ。子供に混じって大人が四人いた。彼らは他の町からきた冒険者たちだ。子供たちと違い、ベテラン冒険者たちからフルボッコにされた状態で子供たちと並んで立たされていた。彼らはこのあと、さらなる罰を受ける。子供と同じ罰で済むはずがないのだ。

「とりあえず、ダンジョン都市シティからは追放だな。冬は外周部でも宿は閉鎖される。食材が回らないからな。そして娼館や男娼館で冬を越えるには莫大な金がかかる。冬は割高になるから国家予算並みの金額だ」
「詳しいね、ダイバ」
「おいおい。俺は行ってないぞ」
「誰もそんなことは言ってません。誤解するということはやましいところがあるからです。さあ、白状しなさい。白状しないなら……」
「ちょっと待て、アゴール! 俺がお前から何時間も離れたことはないだろうが! 待てって! 俺はお前以外の女に興味はない‼︎」

両手にトンファーを装備して構えたアゴールにダイバが慌ててあとずさる。アゴールの目は据わり、いつでも飛び出せるように腰を落として臨戦態勢をとっている。

「じゃあ、「に興味がある」というんだな?」
「うわぁぁぁ! ちが……違う! 落ち着け! 俺が……」
「問答無用ォォォォ‼︎」

関所ゲート前の広場を駆け回るダイバと追い回すアゴール。これはいつもの光景だ。どちらも上手に冒険者をよけて走り回る。

「相変わらず、だね~」
《 アゴールを冷却させた方がいいかな? 》
「放っといていいんじゃない? あれも夫婦のじゃれ合いなんだから」
「副隊長に勝てるわけがないのに……」

二人の部下たち、『ダンジョン管理部警備隊』の隊員たちも笑って見守っている。

「ねえ、知ってる?」
「何をですか?」
「アゴールよりダイバの方がだよ?」

私の指摘に、誰もが驚きの声をあげる。

「ほら、よく見て。ダイバはアゴールの攻撃を一度も受けたことがないでしょ?」

そう言うと、誰もが二人の鬼ごっこに目を向ける。実際、ダイバは上手くよけている。

「アゴールよりダイバの方が強いからこそ、こんな中でも問題がないんだよ」

私が笑うと、隊員たちは感心したような声を漏らした。
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