私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第六章

第174話

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最大五人に制限した店内から二組六人が同時に退店したため、次のお客さんを案内しようと店外に出た。

「お待たせしました。次の……あれ、ミリィさん? エリーさんたちも」

ミリィさんはともかく、エリーさんたち四人も一緒だ。その後ろには、キッカさんやユージンさんも一緒に並んでいる。

「は~い~、エミリアちゃん」
「私たちも、エミリアちゃんのお店を見てみたくて並んだのよ」
「あ、どうぞ」
「キッカたちも一緒でいいかしら?」
「支払い要員よ」
「自分の分は自分で支払ってくださいよ」
「あら、こういう所は男が払うもんよ」
「……そこらの男性より稼ぎが多いんですから自分で払ってください!」
「止めておけ、ユージン。……言ってもムダだ」
「言うだけムダとも言うわよ」
「「ね~」」

キッカさんが止める横でシシィさんが揶揄い、アンジーさんと笑う。それにユージンさんが諦めたように肩を落とす。

「五人以上でも、一組を分けることはしませんから、皆さんどうぞ」

そう言うと、七人が店内に入ってくる。

「エミリアちゃん。商品棚、増やしたの?」

ミリィさんは何度か列に並んで買いに来ている。だから、店内の配置を覚えていたようだ。

「棚を増やした、というより一段増やしたの」

入浴ボムや匂い袋サシェなどの小物は一段増やし、石鹸やキャンドル、ハーバリウムは商品棚の上に並べた。万引きをすれば商売の神の罰が瞬時にくだるし、手加減のない妖精たちの罰は実行犯以外も受ける。
それが知られているため、万引きをする人はいない。

「わあ、可愛い!」

皆さん、商品を見て喜んでいる。

「エミリアさん、これは?」
「『温度調整の腕輪』です。ここは気温が高かったり低かったりしますから。身体の周囲まわりに膜を作って、温度を調節することができます。職人の中でも、特に鍛治師などに人気があります」

そう説明すると、ユージンさんとキッカさんが興味を持ったようだ。
皆さんは結局、販売している商品を全種類一つずつ購入していった。

「「キッカ、ユージン。ありがと~」」

シシィさんとアンジーさんが嬉しそうにお礼を言っている。結局、ユージンさんとキッカさんが女性たちの買い物代金を支払っていた。

「それは構いませんが……。約束通り、仕事を頑張ってくださいよ」
「わかってる~」
「明日から、ね~」

……気付いていますか? 翌日になればその日は『今日』になり、『明日は永遠に来ない』んですよ。


私の店で万引きをして一番最初に妖精の罰を受けたのは職人の女性だった。

「許してください! つい出来心で……」
「そんなこと、言い訳になりません」
「そんな……! ただ、ステキな商品ばかりで……」
「そんなこと、言い訳になりません」
「……あの……同じ女なんですから、許してくれても」
「あなたは『同じ女の犯罪なんだから許せ』と言うんですか?」
「同じ女性でしょ。だったら……」
「では、あなたは『同じ職人が犯した罪なんだから笑って許せ』と言うんですね。それも自分は職人ギルドの、ギルドマスターの身内いもうとだから、何をしても許されるって。……そのセリフ、職人ギルドが許しても職人の神も商人の神も許してくれませんよ」

まあ、妖精たちが手ぬるい罰で済ますはずがないですが。そう言ったら、窃盗犯の全身を雷が駆け巡った。

「残念だけどな。妖精が手を出さなくても、すでに罪状がついている。身内から犯罪者を出したことで、すでにアンタの兄貴も責任を取る形でギルドマスターを返上したぞ」
「う、そ……いつ」
「事実だ。だいたい、現行で捕まっても罪を認めず、家族が助けにこないと言ってふてくされて一日中ぐうたら寝て聴取を拒否している間に、だ」

そう、この女は「悪かったって謝ったじゃん!」と言って罪を無かったことにしようとした。それが認められないとわかったら、今度は聴取拒否をした。その間、四日。家族が私を脅して事件をもみ消させて、自身を迎えに来て無罪放免になると信じていた。
しかし、家族は「聖魔師テイマーに手を出して妖精を怒らせただけでなく、罪を重ねて神々から罰を受ける足手まといおにもつの娘を切り捨てる」ことを選択した。そして、窃盗だけでなく『大陸法』を破ってしまった。
すでに聴取を受けた親兄姉かぞくは口酸っぱく注意してきたと証言した。

「エミリアに手を出すな。彼女には今までの方法は効かないぞ」
「またまた~。兄さんのが通じないはずないわよ。だいたい、聖魔師テイマーなんて大したことないでしょ」
「彼女は職人だ」
「だったら、さらに兄さんの命令に従うしかないでしょ」
「お願いだから、兄さんのいう通りにして。商人ギルドでも、彼女に威圧的な態度を取った職員のせいで大変なことになったのよ」
「姉さんも、もっと大きな態度でいなさいよ。そんなんだから、周りの顔を見て機嫌をとるギルドの受付嬢しかできないのよ」

家族は、この時点で女の対策を怠った。警備隊や守備隊へ通報すれば良かったのだ。しかし、外聞を気にして通報しなかった。そして翌日、事件を起こしたのだ。


「なんで! なんでよ!」
「『聖魔師テイマーに手を出すな』。それくらい子供でも知ってることだ。そしてエミリアはその聖魔師テイマーだ。お前の家族は『妖精の罰』を恐れてダンジョン都市このまちから逃げ出した」
「ねえ、妖精たちが追いかけたけど……」
「ええ。姿で隣町に助けを求めました。大丈夫です、生きています。……とりあえず」
「報告では、妖精たちの罰で傷だらけ、泥だらけでしたがキズも擦り傷、血がにじむ程度です。途中で乗合馬車を下りたらしく、歩いてきたため衰弱しただけです」
「なんで下りたの?」
「砂嵐にあったらしいですね。それを妖精たちの罰だと勘違いしてパニックを起こしたようです」

妖精たちに事情を聞いたら、妖精たちが関与していない、本当の砂嵐だったらしい。

《 私たちは、炎天下の中だったから水を与えて、嫌がらせで土を降らせただけだよ 》

それで、泥だらけで隣町に辿り着いたそうだ。
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