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第六章
第167話
しおりを挟む「こっんにっちは~! 今日のオススメひとつと『グークース』、肉と魚を全種ひと~つずつ。テイクアウトで」
グークースという料理……。日本で近い料理をあげるなら南蛮漬けだろうか。漬け込まれているのは魚と魔物の肉。今日は魚ならアジや鮭、魔物の肉はベアとイノシシ。この店では、いつも二種類ずつ、四種類が用意されている。甕にタマネギやパプリカなどと一緒に調味液に漬けられているのだ。これを家に持ち帰って、焼いたり蒸したりする。もちろん、店内で食事も可能だ。テイクアウトの場合、容器に三キロ入って販売される。種族による個体差があるため、『一人前』に差がでる。そのため、キロ単位で販売されている。この都市のお店では、私の一人分から、妖精たちの分を取り分けてくれている。
……ほとんどのお店が設定している一人前は、私にとって約二人前だ。
魔物の肉は個体や部首によって固かったりするので、酢漬けにして柔らかくするようだ。
「あら、エミリア。久しぶりね。元気だった?」
「みんな元気だよ。ひと月近く、ダンジョンに入って遊んでいたし」
あれからすでに一週間。
ここはアウミが預けられたダイバの母たちが開いている食堂。ダイバの家族は、もうじき『家族の対面の日』が訪れる頃だ。
「アウミの様子はどう?」
「少しずつ元気を取り戻してきたわ。まだ外には出られないけど、ソアラとソマリアが来てくれた時は、楽しそうにしているのよ」
成長阻害の除去のために万能薬が使われたのは知っている。成長を邪魔していたものが消えたからといって、そう簡単に成長するはずがない。
しかし、自分を探している連中がいなくなっただけでも大きく違うだろう。
「イベントは明日が最終日でしょ。それが終われば、人混みも落ち着くから。でも、用心はしないとね」
「そうねえ、気をつけるわ。……そういえば、エミリア。シエラのこと、ありがとね。あの子が、父親や姉兄のことを覚えていないから、不安を抱えているなんて気付かなくって。でもエミリアが『自分と一緒』って言ってくれたことで、勇気が出てきたみたい」
「そういえば、ダイバは?」
ダイバもコルデさんたちと生き別れた時は幼かったのだから、覚えていないのでは? それとも、シエラと違い、家族の声や温もりを少しは覚えているのか。
「あの子は全然。父親と別れたのが三歳になる前だったから、あまり覚えていないみたいなの。でも「楽しみだ」と言っているわ」
男の子と女の子の違いなのかしら? とフーリさんが笑う。……ダイバの性格はコルデさんに似てる。もちろん、兄のオボロさんにも。もう一人の兄、ルルドさんはフーリさんに、いや、真面目な性格なのに何かあると独りで悩みをため込んでしまう点はシエラの方に似ているだろう。
「楽しみですね」
「ええ。夫と息子の一人は冒険者になってるそうなの。そんなところはダイバにそっくりだわ」
ここに辿り着いた、フーリさんたちと同じ国から来た人たちの中には、家族を亡くした者もいる。しかし、二十年以上という月日が人々の心を癒したのだろう。誰からも喜ばれているらしい。もちろん、今もなお生き別れた家族を探している人たちはいる。その人たちにも、「自分たちがここにいる」と知られていく。そうすれば、家族の誰かと再会出来るかもしれないという希望が湧き上がったのだった。
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