私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第六章

第154話

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他の大陸にある国の、それも王都の守備隊隊長がこんな場所まで来た理由はエミリアやミリィのことだけではなかった。

「私たちの国で『犯罪ギルド』が表に出つつあります。以前はそれほど大っぴらに活動をしてはいませんでした。ただ、連中を子飼いにしていた貴族自身が罪を犯し、永久奴隷として鉱山送りになりました。後継者もおらず没落した貴族も。それで彼らがこの大陸出身で、冒険者だった親が亡くなったがために奴隷商に捕まったり大人の手で売られたと判明しました」

「・・・それで、ここに来たのが『冒険者たちが多く集まる』という理由だったのですね」

「はい。ミリィは元々、私と同じ守備隊の隊長です。そんな彼女から『この大陸は冒険者の孤児が多い』という情報を貰いました。この国の王都を含めて調査をしたところ、『冒険者専用孤児院』の存在なども判明しました。ですが、ダンジョン都市ここにはないと聞いたので、孤児はどうしているのかと」

「冒険者に関する内容なので、私たちも同行しました」

「そうでしたか。冒険者の孤児のことだけでなく『犯罪ギルド』に関わることでしたら、都長に相談された方が良いでしょう。これから会われますか?」

「相手の都合を聞かなくても良いのですか?」

「ええ。バカが『話が終わったら皆さんの大陸のことを聞きたい』と言って隣で待っています」

「誰がバカだ!」

バンッと大きな音を立てて入ってきた男。しかし、目の前の五人は特に驚くことはなかった。気配で察知されていたのだろう。

「お前だ。盗み聞きしてたんだろう!ということで、改めて。コレが愚かにもこのダンジョン都市の都長・・・」

私の言葉で自分の『今の立場』を思い出したのだろう。「あ!」と声が漏れたあと、勢いよく客人に頭を下げた。

「すみません!失礼しました!」

「自己紹介」

「あ、はい。・・・なんて言おう?」

「『そのまんま』でいいだろう?」

私たちの会話に『都長』の肩書きをもつ目の前の男に、露骨に表情には出さないが不審感を持っているようだ。

「すみません。『ダンジョン管理部警備隊隊長』のダイバです。あ、『都長』というのは隊長以上が持ち回りで回ってくるんです。それで今は俺が都長をしています」

「そして『都長補佐』として副隊長が就任します。1年で交代するのは、不正をしない・させないためです。長期間、同じ者が高い地位に居続けていたら緊張感が薄れてしまい『これくらいなら』という甘えが出てしまいます。さらに、後任から不必要な出費などがあったと指摘されれば精査し、『不正あり』と認められれば出費額と同じ額を都市に返還し、隊長・副隊長職を解任してヒラからやり直しです」

「けっこう厳しいんですね」

「ええ。良くも悪くも、ここは冒険者がメインの都市です。エミリアもそうですが、『ショップをしながら冒険者もしている』者は多いです。ミリィみたいに『店の食材はダンジョンで採取する』という者も。そして、融通を求めて都長と懇意になろうという者も過去にはいました。そういう身勝手な相手に対し負けた者が都長、もしくは隊長を続けた場合、この都市は簡単に『破落戸ならずものの溜まり場』になってしまうでしょう。ここは『冒険者のオアシス』でなければいけません。そのために、厳しい罰則がもうけられています」

「皆さんが聞きたかった『冒険者の孤児』も対象です。子連れの冒険者は、自分たちにもしもの時があった場合を想定して、事前に各所にある『冒険者専用孤児院』と契約しています。さらに孤児院に毎月か毎年寄付をしています。そして子供を遺して逝った場合、子供は冒険者ギルドに出向き身分証を提示します。そこに向かうべき孤児院名と親が寄付していた額が表示されています。たとえ親がお金を渡さずに亡くなった場合でも、寄付額から孤児院までの馬車代を賄うことが可能です」

「では、この都市にいる孤児たちは?」

「残念ながら、親が自分の能力を過信していたため孤児院と契約されていなかった者。孤児院とは契約したものの、寄付を怠って孤児院までの馬車代がない者。・・・ここで仲良くなった孤児たちと離れるのがイヤな者」

私たちの説明に頷いている客人五人。

「ここで、くだんの『犯罪ギルド』です。連中はこの都市以外で孤児を掻っ攫って、奴隷として貴族に売っています。中には密輸や暗殺用の子飼いとするために犯罪ギルドに預けて叩き込みます。そうして一人前になった元・孤児が密輸先取引先の貴族に届けられます。そちらの大陸で、裏取引で集められた商品は行商人を装って運ばれます」

「この都市の城門には『犯罪者排除』が掛けられています。そのためこの都市にいれば孤児は守られています。ですが、孤児自体そんな事情を知りません。それで迷惑を掛けたり犯罪に手を出したりしています。ただ、ここ最近、犯罪件数が増えただけでなく、迷惑行為を『自分たちは孤児だから何をしても許される』と開き直っている孤児が目につくようになりました」

「孤児の罰則はどうなっていますか?」

「大抵は数年の労働です。人手の足りない下水道の掃除や処理施設で働かせています。12歳になれば冒険者登録が可能ですから、それまでは労働という形で保護しています。賃金は必要経費以外、彼らが12歳になった時に渡します。纏ったお金があれば犯罪に手を出さないですし、冒険者になればダンジョンに入れます。労働で体力も忍耐もついています。慣れるまで、同じ孤児だった冒険者とパーティを組んでダンジョンに入り採取依頼をこなしていきます」

「・・・それで。たしかエミリアちゃんがいない間に家に入って火を点けようとした孤児たちがいて、追放されたと聞いたけど」

さすがに情報収集が早い。・・・いや。エミリア関係だからだろうか?

「コレは公開していませんが。あの時の少年たちは『外からきた孤児』です。言葉巧みに孤児たちを煽り、追放された孤児を犯罪ギルドが連れ去るつもりだったようです。『計画はバレている』と告げて追放処分にしました」

「連中もそうですが、追放された孤児は外周にある娼館・男娼館に引き取られます。彼らは15歳までは『逃亡防止』という理由で館内から出ることはできません」

「娼館や男娼館と聞いて厳しい罰則だと思いましたが、すべて孤児を守るためなんですね」

「ええ。犯罪者だからといって犯罪ギルドに連れ去られてもいいとは言えません」

私たちの話を頷いて感心したように頷いているが、難しい表情をしている男性が2人。

「ひとつお聞きしても良いですか?」

「どうした?ネージュ」

「ああ。エミリアさんの家が暗殺者たちに襲撃されたことがあるとミリィ隊長に聞きました。しかし、この都市には『犯罪者排除』が城門に掛けられていると言っていたが、その暗殺者たちはどこから入ったのだろうと」

「それは簡単です。『あの時が最初の仕事だった』からです。そのため稚拙な襲撃計画だったのと、妖精たちに反撃されて捕まりました。王都に送りましたから、今頃は井戸掘りか水路作りの刑を受けているでしょう」

「ああ、そうか。『まだ罪を犯していない』から城門を通れたわけですね」

「はい。それとエミリアの住んでいる店舗兼住居は『貴族排除』と『犯罪者お断り』の魔導具が設置されています。鍵をかければ結界も張られますし、エミリアが家にいれば妖精たちがさらに結界を強化しています」

「それでは襲撃自体が間違いだったということですか?」

「連中は間違った情報を依頼者の貴族から受けていたようです。連中は『職人の小娘が貴族に歯向かったから武器を回収して小娘を輪姦しろ』と聞かされたそうです。実際には『この大陸で手出し禁止の聖魔師テイマーに、慰謝料で渡した宝石ゴロゴロの武器や防具が惜しくなった貴族院の連中が『輪姦おかせばいうことを聞く。そうすれば妖精たちを使う事もできる』』と考えました。残念ながら、すでに妖精たちが『仕返し』をしています。ダンジョン都市も犯罪ギルドの壊滅と孤児たちのための孤児院設立を早急に王都にオド・・・お願いをしました」

室内がシンと静まった。しかし大人の対応らしくダイバの失言を上手く聞き流してもらえたようだ。
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