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第六章
第149話
しおりを挟む「それで・・・『エミリア自身』はどうなんだ?」
「ん?何が?」
「おいおい。お前は記憶喪失だろうが」
「そんなもん。自分じゃあ『忘れたことすら知らない』んだから。そりゃあ、テントの中で目覚めたら『何にも覚えてなかった』からなー。フォークやスプーンも何に使うか覚えていなかったんだから、箸なんか意味不明のシロモノだったぞ。コップとか叩いていい音が鳴るから彼是叩いてた。・・・とりあえず、半年した頃から『日常生活は何となく思い出した』けどな。それ以外は何にも思い出してない。気にしたって無駄だろ?気にしなけりゃ生きていけるさ」
「・・・それでよく冒険者なんかやってられるな」
「そりゃあ、ピピンとリリンや白虎に妖精たちが頑張って戦って守ってくれるからねえ。・・・今でも『夢遊病』みたいにフラ~ッと彷徨うからね。危険な場所に入り込まなければ見守ってくれてるよ」
「危なっかしいなあ。そんな状態でダンジョンに入ってて大丈夫なのか?」
「ボーッとして覗いていた地底湖に落ちかけて白虎に首根っこ咥えられたり。地の妖精にツタで身体を支えられたり。ボーッとしながら歩いて、立ち止まって、そのまま意識をなくしたと言うか倒れたと言うか眠ったと言うか・・・。そんなもんは、よくあることだろ?」
「『よくあること』じゃねえ!」
「エミリア!今すぐ冒険者止めろ!生命を落とすぞ!」
「イヤですよ。魔物を倒すのはみんながしてくれるし。過去のことを何にも覚えていなかった私の今の趣味は錬金や調合なんですから。『作るのが楽しい』だけで作ったもんに興味はない。置いといても邪魔。だから売っぱらう。それが『店』」
「・・・誰がそんなことを」
「妖精たち。言っただろ?『日常生活以外思い出していない』って。最初だってフライパンを左手に持って、お玉を右手に持って。カンカン鳴らして『こう使うもんか』って。今は調理道具だって思い出したけどね。・・・それにしても、身体は覚えているんだよ。夢遊病に近い状態でもお腹が空けば料理をする。ステータスの使い方も、その中にある料理を出して食べることも。そうじゃなきゃ、すでにテントの中で餓死してる。テントという空間から出ることも考えられなかったからな」
「・・・フレンドは」
「さあ?記憶がないからかも知れんが、名前が空欄だった。っていうか、『名前ってなに?』から始まったぞ」
「じゃあ、今の名前は?」
「ん?ああ。『何となく』で自分でつけた。っていうか浮かんだのを口にしたら名前に登録された。本当の自分の名前なのかは分からんが・・・。今は間違いなく『自分の名前』だ」
そう。空欄の名前を見て「エ・・・ミ、リ・・・ア」と呟いたら名前が登録されていた。少しずつ日常生活を思い出した時に、自分の『エア』とミリィさんの『ミリ』が混じっているのに気付いて苦笑してしまったが。
なんとなく、ミリィさんに守られている気になって、此処まで頑張って来られた。
「・・・・・・そうか」
「暗いなー。本人が気にしていないんだから気にしなくていいよ。じゃないとハゲるよ」
「お前は少し気にしろ!」
その言葉に店内の客たちは大笑いした。
「・・・でも、『知ってる人』が来たらどうするの?」
声のした方を見ると、奥のテーブルにエリーさんが座っています。先日見たキッカさんたちとシシィさんも一緒です。
「・・・どうしようもないんじゃないかな?その人たちには『久しぶり』でも、覚えていない私には『はじめまして』だから。きっと、私を知ってる人は『記憶を取り戻そう』『思い出してもらおう』とするだろうけど。私には『知らない人』で、思い出話をされても『知らないことを聞かされている』だけだから。住んでいたところに行けばって思う人もいるけどね。其処だって私には『知らない場所』だ。行って思い出せればいいけど、思い出せなければ傷つくのは私。そうなれば、周りの人たちの記憶や思い出を押し付けられるんでしょ?・・・無理強いする人たちとは一緒にいられないよ。多分『いい思い出といい関係』なんだろうけど、嫌な思いをして思い出と関係を壊したくない。だったら・・・思い出せない方が私にはシアワセだ」
エリーさんがショックを受けたようです。
「エミリア。ランチ出来たぞ」
「サンキュー。じゃあねー」
ランチを受け取り端末に手を触れる。緑色に光ったのを確認して手を振って店を後にした。
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