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第六章
第147話
しおりを挟むハーバリウムは簡単に作ることが出来るため、熱中し出すと100個以上は作ってしまう。でも販売は少量ずつ。別に希少性目的ではなく、他にも売る商品があるからです。それに瓶は嵩張るため場所が必要になるのです。この大陸では花自体が希少なため、何時までも飾っていられるハーバリウムは女性たちに人気です。この大陸では生花1本が10万ジル。そのため、ハーバリウムは1本最低でも15万ジルで販売しています。中の花の数で金額が決まります。
これは商人ギルドとの取り決めです。職人ギルドからは『レシピの開示』を求められましたが断りました。私のこれまでのレシピもこれからのレシピも『私の死後』開示される設定になっています。ただし、レシピ欲しさに私を殺した場合、レシピは永久に開示されません。
ハーバリウムは、瓶の口を開ける、瓶を割るなどして『空気に触れた』場合、潤滑油が一瞬で凝固します。中の液体が人体にかからないようにするためです。
中身を知ろうとした職人が瓶を割ったら凝固したため『これは液体のガラスで作っている』と思い込み、ガラス瓶に『溶かしたガラス』を入れた。もちろん瓶は割れ、職人は大火傷を負った。そして例に漏れず職人ギルドに『レシピの譲渡と慰謝料』の訴えを起こした。もちろん、そんな訴えは認可されず。逆に話を聞いた私が『よくも脅したな。慰謝料を寄越せ』と冗談半分で訴えたら認可された。
『聖魔師』だから妖精が怒った場合を考えてのことかと思ったら、「あの職人、今までも「お前のレシピで作ったら怪我をした。慰謝料を寄越せ」って訴えたり迷惑行為をしてたんだ。それが今回『公開されていないレシピ』で怪我したじゃないか。それは本人の責任だし、逆に訴えられて当然だろ?」と言われた。
恐ろしいことに、交渉によって決めるはずの慰謝料が一方的に50億ジル送られてきた。ついでに貴重な素材や、『実用性のない』宝石で飾りまくった重たい武器やキンキラな上に着用したら身動き出来ないだろう金で出来たフルアーマーなどが大量に届けられた。
・・・相手は王都に住む貴族のお抱え職人だったらしい。
「奥様やお嬢様から『ハーバリウムが欲しいから作れ』と言われまして。ご主人様からは、殺してでもレシピを手に入れろ、と厳命されました」
保身のためか。罪を問われている職人がそんなことを自供しちゃったから、貴族排除派の職人たちや商人たちが不売運動を展開した。さらに相手は聖魔師な上に、住んでいるのは貴族の権力が通用しないダンジョン都市だ。
『貴族一族を皆殺しにしても許されない』と思った王都の貴族院は、『どうせ私財没収になるのだから』という理由から、貴族の私財や職人の私物まですべて差し出してきたらしい。職人ギルドから転送されてきた時は驚いた。そして・・・遠慮なく貰った。
そのことで、職人ギルドでこの騒動を代理で対応してくれた職員がお腹を抱えて笑っていた。
どうやら、私が恐縮して返してくると思ったらしい。そうしたら、お金も宝石ジャラジャラの武器なども王城が『相手が返してきた』と言って手に入れられると思ったらしい。それを私が受け取ってしまったため王城では大騒ぎになっているそうだ。それで財政を立て直す気だ、って・・・。完全に『捕らぬ狸のなんとやら』だ。
「お金で解決したいらしいんだけど・・・どうする?」
「あー・・・。お金はいらないんですよね」
「今回50億貰ったから?」
「ではなく・・・。あの50億でも、私には『たいした額じゃない』んですよ」
「・・・・・・いくらあります?だいたいの金額で構いませんが」
「え・・・と。『京』と言って・・・分かります?」
「『兆』の上、ですか?」
「はい。今回もらった五十億ジルで、その京の次の単位『垓』になりました」
「・・・・・・つまり『一垓ジル』ってことですか」
「はい。・・・犯罪履歴はないので、正当な方法で手に入れたんだと思いますが」
「それにしても、一体どうやってそんな大金を・・・・・・あ!すみません」
「いえ。・・・ただ、今でも自動で振り込まれているので、さらに増えています」
言ってる途中で、私が記憶喪失だと思い出したのだろう。テーブルに頭を擦り付けて謝罪してきた。
ちなみに此処は1階の店。誰であろうと、2階の自宅には入れたくないから。
「彼方には、私は職人だから、宝石や金属の類は有効活用すると伝えて貰えますか?」
「そうですね。それでしたら『お金を積まれても断る正当な理由』になります。では交渉は破棄で進めます」
「はい。お願いします」
そんな話をした二ヶ月後・・・。私の家に『強盗団』が押し寄せました。貴族ではないため、簡単に家に押し込めると思ったようです。そして職人のため、奪う予定の武器類は作業場にあり、私が女と言うことで「二度と貴族に歯向かえないように犯す」・・・予定だったそうです。
襲撃前に妖精たちが強盗団を一網打尽にしましたが。
「相手は『職人の小娘』で聖魔士だなんて聞いてない!」
「『職人の小娘』だろうと聖魔士だろうと、家を襲って女性を犯していいはずがない!」
「貴族に歯向かった小娘だ!どうせ小娘は貴族連中の『慰み者』にされるんだ!その前に犯して何が悪い!『小娘を犯す』のは貴族の依頼に含まれている!」
「そのセリフ。妖精の前で言えるんだな」
「・・・なんだと?」
「『妖精の前で言えるんだな』と言った。ああ。お前たちは最初から間違っている。『貴族は慰謝料で差し出した宝が惜しくなって取り戻そうとした』だけだ。それに・・・彼女は『職人の小娘』ではない。冒険者で、職人で、商人だ。そして聖魔士ではない。聖魔師だ」
『聖魔師』と言う言葉で青褪めて『ことの重大さ』に気付いたそうです。
その時にはすでに『後悔先に立たず』だった。妖精たちはすでに王城を全壊にして来た後だったからだ。
・・・当時、私は寝てたから話を聞いたのは何日も後。
《 人は傷つけていない 》と知った私は妖精たちを誉めた。それを守備隊が『妖精たちが王城を全壊させたことなどを報告したところ、聖魔師は妖精たちを誉めた』と思わせぶりな言い方をしたそうだ。
「ダンジョン都市に住む聖魔師には手を出すな!」
国王はそう勅命を出したが、国内外に流された勅命は『ダンジョン都市には手を出すな!』に変わっていた。公表してしまった以上、訂正や変更は出来ず。その鬱憤は『強盗団を送った貴族』に向けられた。
貴族院の中で今回の襲撃に関わった貴族たちは全員が爵位の剥奪の上、領地没収に私財没収。その上で当事者は公開処刑という判決が下された。『石打ち』と呼ばれる、下半身を地面に埋めて握り拳ほどの大きさの石をぶつけて殺す処刑だ。簡単には死ねない上、王都の住人全員が参加出来る公開処刑のため王都では一般的な処刑方法だった。
貴族排除派の手によって、娘たちは商品や奴隷娼婦として国外に売られた。結婚間近の娘もいたらしいが、平民に落とされた娘たちに救いの手を差し伸べる婚約者はひとりもいなかった。・・・国王の怒りが自分に、家族に、一族に及ぶのを恐れたからかもしれない。
『エア・ズ・カフェ』では、変わらず私のレシピで作っているのだろう。今でも商人ギルドからレシピ代金が自動で振り込まれている。レシピ販売だけでなくレシピ使用料も支払われているということは、カフェ以外でも使われているのだろう。
職人ギルドからも、アイデア使用料などが支払われている。最近では販売だけでなく買取も始めていた。通常の回復薬だけでなく『神の祝福を受けた方専用』というのもある。『マスターの愛称』がパスワードだ。・・・私が生きていると信じて。何時か私から連絡が届くと信じて。
だから、一度だけ開いた。そして、作り置きしていた回復薬や特効薬をすべて届けた。それ以降、通常の買取から薬草や虫草を買い取って貰っている。虫草の買い取りに上限はない。・・・だから、一度に千本ずつ売却している。それだけでも、気付いているだろう。
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