私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第五章

第120話

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村に設置されていた『魔物よけ』の魔導具は、フィシスさんたちが貴族を使って交換させたそうです。

「あら?断るの?」

「当たり前だ!俺たちは貴族なんだ!」

「だから?」

「・・・なんだと?」

「魔物に立ち向かわず真っ先に逃げ出して、村人を魔物に向けて突き飛ばし、冒険者所有の馬車を強奪した理由にはなりませんよね。私たち守備隊は『騎士団庁』所属です。この村での報告もすべて提出します。貴方方の行為で貴族の地位をさらに下げることになりますよ」

さすがにヤバいと思ったようで、文句も言えずに設置の手伝いをしていたそうです。

「でも無駄よ。私たちから全部報告したから」

エリーさんが含み笑いをしています。

「あら?私たち、その場にいなかったから全部報告しちゃったわ」

「ねー」と顔を見合わせて笑い合うアンジーさんとシシィさん。

「そう言えば、すでにみんなの隊は魔導具の調査に行っていたから、あの時貴族たちと話している場所にいたのは私の隊だけだわ」

フィシスさん・・・。間違いなくたばかったんですね。

「まあ、フィシスは「報告しない」とは言ってないから問題ないだろ」

エリーさんの言葉にフィシスさんたちを含めた全員が頷いています。

「あの連中にはちょっとムカついていたからなあ」

「だいたい、図々しく二杯目を食おうとして並び直すなんてなあ」

「あら。そのおかげで失態を繰り返したのよ。今頃、昨日・今日で届けた日報を見た騎士団庁から報告が行っているんじゃないかしら」

フフフとフィシスさんは『黒い笑み』を見せています。そんなフィシスさんの姿を見て、アクアとマリンがオボロさんの後ろに隠れて震えています。

「いい加減に慣れろ。・・・もっと『ヤバいヤツ』はいくらでもいるんだぞ」

・・・その言葉で、二人がさらに怯えていますって。


「そういえば・・・。魔導具の魔石はどうなっていたの?ひとつでも壊れたら村は守られないの?」

「ああ。魔導具は半数が壊れたり機能しなくなれば結界にならない。・・・ヤスカは10基の魔導具のうち3基の魔石が壊れ、3基の魔石が機能低下していた」

「壊れた分の負荷が残り7基にかかっていたんですね。じゃあ、機能低下していた魔石が機能停止したら、他の魔物に襲われていたんですね」

「・・・そうね。エアちゃんの『研究』がなかったら春まで気付かれなくて、ヤスカ村は大変なことになっていたわ」

ミリィさんが優しく抱きしめてくれます。
私は食堂に入ってからずっとミリィさんの『膝だっこ』状態です。

「エアちゃんにあんな光景を見せずに済んで良かった」

そう言って泣かれました。
魔物たちの討伐後、魔導具の交換を貴族たちに押し付けて、守備隊の人たちがしたのは『雪の下に隠された遺体の発見』でした。少し前に私が言った『落とし穴に入れて雪で埋めて保存』が現実に起きていたのです。

「でもね。ミリィさん。問題は片付いていないのよ?」

ミリィさんを見上げると、「うん。分かってる。『どうやって魔物が村に入ったか』よね」と言われました。

「それと・・・根本的な『冬に魔物が活動している事実』もだな。村の連中に確認とったが、魔物だと思うが、火球で施設が襲われたのは『雪が積もった後』だ」

アルマンさんの言葉にフィシスさんたちが「この冬は忙しくなるわ」と話しています。

「ねえ・・・。その村の中で『何処にいた』のかな?」

「・・・エアちゃん?」

ミリィさんにしがみついた状態で呟いた声はミリィさんに届いていたようです。

「ミリィ?・・・エアちゃんがどうしたの?」

「ん・・・。『村の中にいた魔物は何処にいたのか』って」

「村の中にいたんだから・・・あら?」

「そういえば・・・。個人宅は何処も壊れてなかったわよね」

「じゃあ野宿・・・?いや。魔物が雪に強いって話は聞いたことないぞ!?」

「『村人の中に魔物を招き入れた者がいる』とでも言うのか?!」

皆さんが意見を出し合っています。ですが『悪い想像』しか出てきません。

「・・・フィシスさん」

「なあに?」

私がフィシスさんに声をかけると、ピタッと会話が途切れて静かになりました。

「・・・壊れた魔石は調べたの?」

「・・・え?」

「・・・調べていないわね」

「何故?『魔力切れ』じゃなく『壊れた』って言ってるのに・・・」

私の言葉に青褪めたフィシスさんが慌てて立ち上がりました。

「キッカ!鍛錬場を貸して!エリー。鑑定で確認して!」

「エアちゃん。エアちゃんも一緒に見てもらえる?」

全員で鍛錬場へと移動して、回収した魔導具を10基全部確認することになりました。




「ちょっと・・・これって」

「『外部からの破壊』って出てるわ」

完全に三分割に壊れた魔石は確かに『外部からの破壊』と表示されています。・・・ですが、それだけではありません。

「ヤスカ村ウィップスによる魔石の破壊・・・」

「エアちゃん?何を言ってるの?」

フィシスさんが不思議そうに聞いてきました。あれ?エリーさんの鑑定には出てないのでしょうか?

「エアちゃん・・・。やっぱりエアちゃんの鑑定にもウィップスの名前が出てるのね」

「誰ですか?」

「ヤスカ村の村長の息子。三番目だっけ?」

「いいえ。五番目よ。ただ二番目と四番目の息子は村を離れているわね」

エリーさんの言葉をシシィさんが修正と補足をしてくれました。
すでに誰もが理解したようです。

「つまり、『村長の息子が魔物を引き込んだ』ということか」

「それはどうか分からないが・・・。少なくとも『魔石を壊した』のは事実だ」

「これは騎士団庁に任せたほうがいい。すぐに書類を纏めて提出するから、フィシスは先にその証拠を騎士団庁に出してきて」

「フィシス。私も一緒に行こう」

「シシィもミリィも手伝って。・・・ミリィ。仕事を早く終わらせないと、『一緒にごはん』が出来ないわよ」

「・・・一緒にごはん」

「エアちゃんと一緒にごはん・・・」

「ミリィ。早く片付けるわよ。だから、明日一緒に『お食事会』にしましょう?」

「・・・ミリィさん。何が食べたいですか?」

「チーズを使った料理」

「じゃあ、『明太子チーズフォンデュ』と『味噌チーズフォンデュ』にしましょうか」

「ずりー!」

「俺たちも参加したい」

「『女子会』に男は参加禁止だ」

「ズルいぞー!」

「・・・『女子会』が始まったキッカケは誰のせいで理由は何だ?」

キッカさんの言葉に全員が黙って俯いてしまいました。
ちなみに私が研究施設に引きこもったのち、事情を知ったアルマンさんからアクアとマリンとは別の『特別訓練』を受けたそうです。

「『片手腕立て伏せ。背中に50キロの重り乗せ』・・・を毎日300回」

最初はそのはずだったのですが・・・。
不平不満を言ったのがアルマンさんの耳に入ったため、罰として重りは毎日1キロずつ増えていったそうです。

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