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第五章
第110話
しおりを挟む私の話を聞いたエリーさんから冒険者ギルド経由で王城へも問題が報告されました。ヤスカ村と連絡が取れないためキッカさんたちと共に調査に出る話がありましたが、王城に新設された『調査部』の『魔物課』が出動することになりました。そして冒険者ギルドに『護衛依頼』が出ました。
「残念ですが。エアさんは留守番ですね」
「・・・ゴブリンなのに」
「ホブゴブリンは名前通り旅をする種類だけど、ゴブリンは棲息地から移動しないわ。南部にもまだあるし調査するから。今回は留守番しててね?」
「・・・ゴブリンなのに」
私の様子に誰もが顔を見合わせています。考えたりしていますが、誰も疑問に思わないようです。
「エアさん・・・?何か気になることがあるのですか?」
「・・・ゴブリンって体長は?」
「だいたい1メートル30センチくらいでしょうか」
「・・・外の雪って、いまどれだけ積もってますか?」
「1メートルですかね」
「ああ。『そういうこと』ですか。・・・たしかにそれは『おかしい』ですね」
アルマンさんは気がついたようです。
「ちょっとアルマン?!エアちゃんも。一体なんだというの?」
「エリー。ゴブリンに限らず、魔物が『冬に活動している』報告を聞いたことはあるか?」
アルマンさんの言葉に誰もが固まってしまいました。
そうなのです。この世界の魔物の多くは『冬眠する種族』なのです。冬眠しなくても棲息地から出ません。国内の主要街道には『雪解け』の魔導具が設置されているため馬車の往来が可能です。ですがその街道を外れると『雪の壁』が出来ています。大半の魔物は1メートル50センチ。『雪を掻き分けて襲撃』など、今までなかったのです。
「もちろん、主要街道には雪がありません。その街道を通って移動すると考えられます。ですが、魔物の棲息地まで雪掻きしている訳ではないですから・・・」
急に黙って考え込んだ私に周りが騒つきました。エリーさんやキッカさん、アルマンさんも同時に考え出したからです。
「エアちゃん・・・。別の言い方をすれば、『主要街道に出られさえすれば王都まで襲撃が可能』ってことよね」
「それも道が出来ている以上、『王都まで迷うことなく行ける』ということになる」
「もちろん、これは『魔物が冬眠しない』。もしくは『フィールドの雪を掻き分けて闊歩する』ことが前提になります」
「そうね。まだ『調査も始まっていない』以上、これはすべて『机上の空論』でしかないわ。でも予備知識として頭に入れておけば、その点も調査出来るわ」
そんな話し合いで上がった内容で、王城も改めて危険性を再確認したようです。ヤスカ村の調査によっては、各地への調査を開始するそうです。
冒険者ギルドは「まだ未調査ですが」と前置きして、魔物たちの生態が変化している可能性があること。そして『雪にも対応出来る個体種が現れた』可能性にも触れたそうです。
「実際、『イノシシ系オーク』や『回復系プリーストのホブゴブリン』の目撃および討伐報告も上がっています。写真ではありますが、そのデータも受け取っております」
『ブタ系オークのみのダンジョンの発見および討伐とその危険性』を伝えた時は、あまりのショックで貴族たちは半数が失神したそうです。
「その場にいたのは『温室育ちのご令嬢』だったんですか?」
「いや。『苦労を知らない若造』だったよ」
そして、この騒動が他国でも起きているのか。他の大陸でも起きているのか。そんな話に進み、各国と連絡を取って国内の調査をし、『世界会議』を行うそうです。
「その場合、この大陸だけなら『シメオン国』。他の大陸とも会議をするなら『ペリジアーノ大陸』かしら」
ヤスカ村の調査が終わり次第、王城から各国と連絡を取ってくれるそうです。
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