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第五章
第108話
しおりを挟む研究施設を出て、まず最初に食堂へ向かいましたが、目当ての人物は見つかりませんでした。次に向かったのは鍛錬場。
「エリーさん。・・・相談があるの」
「どうしたの?実験台だったら、いくらでもいるわよ」
「実験も大事なんですが・・・。今日もまた貴石を調べていて、気になる事が出てきたのです。それを確認したくて。冒険者ギルドに行けば分かるかも知れませんが。エリーさんなら詳しいことが分かるんじゃないかって」
「それは魔物のこと?」
「はい。ダンジョンなどの同じ場所に『同種にも関わらずタイプの違う魔物が共存』するのでしょうか?」
「エアさん。それはどういうことか、詳しく教えてもらっていいですか?」
ルーフォートに滞在していた時に入ったダンジョンで、各種スライムに遭遇しました。ほとんどが無属性のスライムでしたが、その中に火属性に水属性。そして回復魔法を使う光属性・・・。
「え?スライムは無属性しか知らないわ。無属性だから、どの魔法でも効くけど武器による攻撃は無力化されるの。だから、魔法が苦手な冒険者は『まわれ右』で逃げ出すかスライムが目撃されたダンジョンに入ろうとしない・・・」
エリーさんは自分で言っていて何か気付いたのでしょう。眉間に皺を寄せて黙り込んでしまいました。
その様子に、休憩がてら話を聞いていた皆さんはザワザワと話し始めています。ですが、誰もスライムと戦ったことがないようです。
「皆さん。戦ったことがないのに『スライムは無属性しかいない』と言えるのですか?」
「そうよ。・・・スライムと戦える冒険者は多くないわ。まず攻撃魔法が使えないと無理よね。でも、時々「強いスライムに出会って逃げてきた」という冒険者がいたわ。「魔法が効かなかった」と言っていたのよ。確かに防御力が高い魔物に弱い魔法は効かないから深く考えたことがなかったけど・・・。属性があったなんて考えもしなかったわ」
「そうですね。スライムの棲息地があまり知られていないこともありますが、知っていてもわざわざ行くことはしません。ドロップアイテムも特に欲しいと思いませんし」
私の疑問にエリーさんとキッカさんも『属性を知らない』とのことでした。そのため、戦闘情報にある魔物図鑑の『スライムの章』を開いてスクショを撮り、エリーさんに送りました。私が討伐した魔物の情報が上書きという形で更新されていくのです。ただし、ドロップアイテムは自分が得た場合のみ。未収得のものは記載されませんし、攻撃魔法の情報も現れません。
ちなみにエリーさんへ送ったのは『スライムの章の目次』です。魔物の名前と属性、討伐数が書かれています。詳細は名前に触れれば開かれます。
「エリーさん。スライムの情報を送りました」
「え?ああ。ありがとう」
エリーさんが操作してチャットを開いたのでしょう。「これは・・・」と言ってからブツブツと呟いています。
「エアちゃん。聞いたことのない名前が多いし討伐数も異常に多いんだけど」
「いまキッカさんが言った通りじゃないでしょうか?『スライムがいるから入らない』。だから増え続けたのでしょうね」
「エアちゃん。この『ビッグ』や『キング』って一体?」
「記録を送ります。複数のスライムが一体化して巨大になってました」
「ちょっと!これ大きすぎでしょ!」
「ボスみたいでしょ?」
「『みたいでしょ』って・・・」
『スライムキング』は高さが5メートル。横幅が10メートルはありました。他にも毒攻撃をしてくるスライムもいたのです。ちなみに無属性のスライムは飛び乗ってきます。まるで猫がお尻を振って距離を確認してから飛びかかってくるように、スライムもユラユラ揺れてから飛びかかってきます。
・・・その前に魔法を使って倒しますが。
「こんなにスライムの種類が多いなんて・・・」
「エリー?」
エリーさんの様子にキッカさんが声を掛けましたが「改めて調べてから公表するわ」と言ってから私に顔を向けました。
「悪いけど、これは誰にも教えないで。調査してからじゃないと・・・」
「はい。分かりました」
「部屋を移動しましょう。応接室を借りるわよ。じゃあエアちゃん。行きましょ」
エリーさんに引き摺られるように部屋を出ました。こういうことは他の人に言ってはいけないのかも知れません。
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