私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第四章

第97話

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『みんなで大玉に入って楽しく駆けっこ50周』

アルマンさんが出した特訓メニューです。もちろん、テント内の広大な荒野訓練場です。
デコボコの岩場に誰かが引っかかって吹っ飛ぶついでに、前後左右が『巻き込まれ』で仲良く一緒に飛ばされて行きます。

「うわー!」

此方コッチ来んなー!」

「「キャア~♪」」

・・・大変、場違いな歓声もあがっていますが。


「・・・アクアとマリンは何でも『遊び感覚』だな」

「ボールなどの特訓や鍛錬ならいいですが、魔物相手に遊ぶのは止めさせた方がいいです。無邪気だから危険です。強すぎるから・・・残酷です。『生命を頂き自らの生きるかてとする』。それは幼いからこそ知らないといけないことです」

「そうね。強くなればその分残酷さや非道さが目立つようになっていくわ。今は私たちの中だけで行動しているからこの程度で済んでいるけど、別のパーティと一緒になった時に怖がられて傷つくのはあの子たちよ」

「ユーシスくんもマーレンくんも。あの子たちの強さに関しては認めて誉めてくれるでしょう。ですが・・・残酷な戦闘を見たら、マーレンくんは子供です。傷つける言葉を発してしまうのではないでしょうか。・・・無意識のうちに拒絶してしまうかも知れません。それはアクアやマリンだけでなく、マーレンくん自身の心をも傷つけることになるでしょう。考えても見てください。あの二人以外の小さな子が、強い魔物を見つけて喜んで飛びかかり、散々遊んだ後に「満足した」「気が済んだ」と言ってたおし、「楽しかった」「面白かった」と笑顔で戻って来たら。・・・どう思いますか?」

「・・・怖いな」

「ああ・・・。せっかく出来た友だちを、そのようなことで失うことはさせたくないな」

「それに・・・。あの子たちの『無邪気さ』を私欲に使う冒険者が現れるかも知れません。子供でも、冒険者となった時点で一人前・・・なんですよね?」

「ええ。あの子たちは冒険者登録した時点で『冒険者のひとり』になったわ」

「エリー。キッカ。あの子たちが成長するに従って、俺たちが何時も見守ることは出来なくなる。エアさんの懸念を拭うためにも、あの子たちには『ひとりの冒険者』として教育しないといけない」

アルマンさんの言葉に、エリーさんとキッカさんは黙って、それでも強い意志を秘めた目でアクアとマリンを見ながら頷いていました。

「エアさん。もしかして『一瞬で魔物を倒す』のは、魔物の生命に敬意を払ってのことですか?」

キッカさんの言葉に私は二人から目を離さずに口を開きました。

「私は冒険者になった以上、魔物の生命を奪います。ですが、魔物に生命を奪われる『覚悟』もしました。・・・私は殺されるのであれば一瞬で殺されたい。何時までも苦しみながら死ぬのは嫌です。だからこそ、魔物たちにも同じように苦しませる殺し方はしたくありません」

「・・・そうですね。魔法の効かないボス部屋で回復薬が切れた状態になったら、自分はなぶり殺しにされるより一瞬でトドメを刺して欲しいです」

「私は・・・恥ずかしい話だけど『殺される覚悟』はしていなかったわ。そうね。私たちだって『強いから殺されない』なんてたかくくっていてはダメよね」

おごたかぶる行動は、死に直結します。・・・・・・私は、皆さんの『死にざま』を見たくありません」

「・・・そうね。今度から気をつけるわ。私もそんな形でエアちゃんを遺してサヨナラしたくないもの」

そう言いながら、エリーさんは優しく抱きしめてくれました。




私は本格的に冬が来る二ヶ月後まで、宿で過ごすことにしました。以前のように近場のダンジョンに行ったり。喫茶店の定休日には厨房を借りてパパさんと料理したり。週一回、屋台の人たちが鍛錬場で開いてくれる野菜の買い叩きにもパパさんたちを連れて参加して、『冬籠り』のために野菜を買い漁ったり。


そして、雪がチラつき始めてた日。
私はキッカさんたちの住処アジトへ戻ってきました。










父と弟の『処刑』から、私は毎日王都周辺のダンジョン調査の報告を受けていた。
王都周辺では一番深い『水の迷宮』を使った、王都治療院や審神者を始めとした不埒者たちが引き起こした『大量殺人』などの取り調べや調査の報告書。さらに冒険者ギルドが主体で始まった、各ダンジョンの調査とフィールドの魔物調査。

驚いたことに、ダンジョンの一斉調査で捕まった不埒者がさらに多くいたことが分かった。

そのほとんどが、窃盗などの罪を犯し、其処で適切な罰を受けて罪を償った後に町や村を出た者たちだった。その町や村では、白い目で見られたり、店舗では『入店禁止』の魔術具に登録されて入り口で弾かれたりする。自業自得と言ってしまえばそれまでだろう。しかし、彼らにとってみれば飲食もままならないのだ。下手をすれば、家族全員が同じ状態になる。そのため家族たちは、離婚や勘当、廃嫡や廃籍などの対策をする。真っ先に『家族から切り捨てられる』のだ。元の家族に頼っても、手を差し伸べれば自分たちにも『同じ道』が待っている。小さな町や村ならそれもあるだろう。いや、すでに一部では批難されていてもおかしくない。そのため、元の家族たちから忌避され、いる場所をなくして王都まで来る。

王都に入ることが出来たら、貧困層スラム街で何とか生活していけるだろう。しかし、王都に来るまでに強盗や強奪、窃盗などをしていて入ることの出来ない者たちもいる。捕まった者たちも、元はそんな理由から王都に入れなかった者たちだ。そして彼らは徒党を組み、初心者用ダンジョンの広場にひそみ、冒険者たちを襲ってきたらしい。このダンジョンに入るのは殆どが未熟な初心者だ。そのため、『腕に覚えのある連中』にしてみれば『赤子の手をひねる』ようなものだっただろう。

「陛下。今回の件を踏まえ、『ダンジョン管理部』を廃止し『冒険者ギルド』にダンジョンの管理を一任しては如何いかがでしょう」

重鎮と各部の責任者が集まった『御前会議』。数にして約100人。重鎮が17人。残りが責任者だ。二人出ている部署もあるが、こんなに部署があったのかと驚いた。そのため、側近に部署の詳しい調査を頼んである。
此処にダンジョン管理部の人間は来ていない。部署で調査を受け、現在謹慎中だ。今頃、保身のために弁明書を書き上げているだろう。

「ダンジョン管理部を廃止するとして、彼らがしていた『仕事のすべて』を冒険者ギルドに丸投げして責任を押し付けるつもりか?」

「しかし、初めは冒険者ギルドが管理をすると申し出ておりました。ですので、一任させても問題はないかと思われます」

「お前たちは、冒険者ギルドの申し出を断り、新たに部署を作り、其処に巨額を投資してきた。ダンジョンの管理をするのに国が部署ひとつ作るくらいの『大仕事』ではないのか?それを町や村にあるギルドにすべて押しつけるのか?と聞いている。もちろん、今まで管理部に出してきた額、いやそれ以上の額をギルドに渡すのだろう?」

「なんで国家予算をたかが町や村のギルドなんかに!」

「それは陛下に対しての言葉か」

財務大臣の声に、私の言葉に異を唱えていた会議室内がシンと静まり返る。

「今回の騒動で、冒険者が大量に引退した。この王都の冒険者も半数以上は引退している。さらに各地のギルドに所属していた冒険者が引退し、人手不足になっているとの報告も来ている。そのため、何処にも所属していない冒険者に『所属しなければギルドの使用を禁ずる』と言ったギルドがあった事も聞いている。其処には書面による注意をしておいたが。それほどの危機に瀕したギルドに管理が出来ると思っているのか?」

「ですが、冒険者なら報酬をチラつかせれば使えるでしょう」

「連中は金が欲しくて冒険者なんていう野蛮なことをしているくらいだ。端金はしたがねで請け負うに決まっている!」

何も分かっていない文官とおぼしき若者たちがそう口にすると、同意するように重鎮と私以外が頷いて冒険者を見下す発言をしだした。しかし、私たちの様子に気付いたひとりが口をつぐむ。すると誰もが私たちを見て口を噤んでいき、それが連鎖して静かになった。

「お前たちは、いや、すべての者たちが勘違いしているのは分かっていたが・・・此処まで酷いとは思わなかったな。偏見の塊ではないか。『上に立つ者として失格』だな」

「ええ。たしかに。こんな連中だからこそ『ダンジョン管理部』のようなバカがいて出るのでしょうね」

国の重鎮たちにバカと言われて俯く者。悔しそうに表情を歪める者。しかし自分が間違っていると考えた者は誰一人いないようだ。

「お前たちは『光の聖女様』が誉め称えた相手は誰だったか。そんなこともすでに忘れたのか?そのような者たちに管理を任すことは出来ぬな」

私の言葉に誰もがいかりの表情を浮かべたものの、恥じて俯く者もいる。その者はまだ『改善の余地あり』だろう。

「聖女様は冒険者を誉め称えた。冒険者『だけ』だ。私を含め、貴族でも神官でもない。お前たちがクズだ野蛮人だと見下している冒険者だ。では聖女様にお誉め頂けなかった我々は『冒険者におとる』のではないか?」

「しかし、それは・・・!」

「彼らの蓄えは貴族に匹敵する者も多いと聞く。だからこそ、今回の騒動で簡単に引退した冒険者が多い。そんなことも知らぬのか?」

「認めたくないのでしょう。今まで散々見下してきた相手より自分の方が劣っているのも。彼らが命がけで魔物と戦っていたから日々平和に暮らせていたにも関わらず、自分たちは雑な仕事をしてきたがために聖女様に誉められなかったことも」

「いくら宰相とは言え失礼だ!」

「どの点がですか?」

「我々も必死に働いてきた!『ダンジョン管理部』の失態を我々全体への評価としないで頂きたい!」

「その言葉、そのままお返ししましょう」

「なんだと・・・」

「冒険者の評価を正しく出来ない者が、何を偉そうに言っているのです?それで貴方方はダンジョン管理部お仲間の尻拭いを冒険者に押し付けて何もしないつもりですか?ですから、無責任な貴方方には『今いる役職』に合わせた責務を負って頂きます」



『ダンジョン管理部』は廃止が決定した。そして現在・過去に所属して不正を働いていた者たちは『犯罪奴隷』としてダンジョンに入ることになった。そして『御前会議』に出ていた者たちは、『ダンジョン管理部・尻拭い課』という文字通り後始末をつける課を設立して、そこに押し込めた。この課の最高責任者は私であり、補佐は宰相だ。
冒険者ギルドに高額で護衛を依頼することとなった。
尻拭い課や元ダンジョン管理部職員と共にダンジョンに入って貰うことになったが、見下していた冒険者たちに『守られる』のは屈辱のようだ。
しかし、彼らはダンジョンから無事に生きて戻ると、人が変わったようになった。何より、冒険者たちを見下す言動を反省し、逆にうやまう発言まで出てくるようになった。

冒険者たちがどれだけ危険な中で生きているのかを実体験したのが良かったのだろう。ただ、冒険者が言うには『たいしたことがない』強さの魔物だったらしい。そして、フィールドに現れた魔物も「最近現れ始めた」らしい。改めて『魔物の驚異』を思い知った彼らは、王都が冒険者によって守られており、聖女様がそんな冒険者たちを誉め称えたことに納得していた。
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