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第四章
第90話
しおりを挟む「フリーザ。盗難にあった国宝を話し合いによっては無償でお返し下さると申して下さった権利者様を陛下自ら害しようとするとは・・・」
「・・・!アルマニール王兄殿下!何時此方へ・・・!」
「権利者様だって?!しかしそれは別の方のはずでは・・・」
「キッカは『交渉代理人』だ。女を見れば見境なく発情して襲うしか脳のないシツケの出来ていないバカ犬の前に、誰が生贄のように女性を出すんだ?アホか。アホだよな。30年経ってもアホだから、彼女を「不敬罪で仲間全員殺すぞ」と脅して連れ去ったんだよな。・・・こんなことをしてタダで済むと思うなよ」
「アルマンさん。あれ?王兄?・・・アルマンさんが?アレ?でも名前が違う?・・・アルマンさんも、名前を奪われてこの国を追放されちゃった人?」
神の声で『交渉により国宝を取り戻す』ことが不可能になり絶望感を味わっていた国王たちの前に現れたのは、私の知っているアルマンさんでした。ネージュさんに話を聞いて駆け付けてくれたようです。
頭の中で疑問符が飛び交う私の隣に来たアルマンさんは、さっきまで私が座っていたイスを寄せて座らせてくれました。
「ハハハ。俺はエアさんの知っている通り『鉄壁の防衛のアルマン』ですよ」
「アルマンさん・・・。権利の神様が正式に『交渉決裂』にしちゃったんだけど」
「ああ。エアさんの物にしていいんですよ」
「持ってても使い道がないから、分解して素材に使ったり売っちゃいますよ?」
「構いませんよ。元々、エアさんの物ですから」
私とアルマンさんの会話に周りがざわつきました。そりゃあそうですよね。『国宝を分解する』なんて話しているのです。それもひとりは彼ら曰く『王様のお兄さん』なのですから。
「何を・・・!」
「あれは国宝で・・・!」
「その国宝を「いらん」と言ったのはお前らの国王だろうが」
「・・・俺は『冒険者』だとしか聞いていない」
「うん。だから「奴隷にしてやる。ありがたく受けろ」と言って、呆れて返事出来なかった私を周りが止めたのに「殺しても構わない」と言って襲い掛かったんだよね。『権利者を守る壁』と『雷の罰』を受けたけど。だから私が『国王による暴力行為』って宣言したのに『国王による殺害未遂』って神様が罪をひとつ重くして宣言を認めたんだよ」
「・・・何、だと?」
私の言葉に反論する前にアルマンさんの威圧を含んだ『にらみ』にフリーザ王は青褪めて「ごめんなさい!ごめんなさい!」と土下座して謝罪しています。アルマンさんは必死に謝罪しているフリーザ王に静かに近付いていきます。
「『殺しても構わない』と言うことは『殺されても文句を言わない』ってことだと教えたな」
「ごめんなさい!ごめんなさい!もう言わない。二度と言わないから・・・」
「その謝罪。聞き飽きた」
アルマンさんが小さな動きでフリーザ王の腹部を蹴り上げると壁まで吹き飛びました。
「ヤ・・・メ」
「んー?『殺されても文句を言わない』んじゃなかったか?ああ。『自分が悪うございました。反省しています。いくらでもこの身で罰を受けます。だから手加減しないで『止め』ないで』か」
「ち、ちが・・・」
髪を掴み顔を上げさせると、再び蹴りを入れていました。『ブチブチッ』という、この場に相応しくない音と共にフリーザ王は私の前を右から左へと通り過ぎて行きます。アルマンさんが手を払って手に絡んだ何かを大量に床に落としているのが見えました。・・・・・・アレは『髪の毛』ですね。掴んでいた髪の毛が抜けたのでしょう。その量から、見事にハゲたと思われます。・・・頭頂部が。
「アルマニール王兄殿下!お待ち下さい!アルマニール王兄・・・」
「その名は『捨てさせられた』。今の俺は冒険者のアルマンだ。・・・ああ。エアさん、心配しなくて大丈夫ですよ。これは『兄弟喧嘩』で賞罰がつきませんから」
アルマンさんが笑ってくれました。はい。その点が気になっていました。だから『権利者の特権』で私が手を出した方がいいのかと思っていました。
そうですね。お二人は兄弟ですから、これは『兄弟喧嘩』ですね。大人なので、ひとつひとつの被害が大きく見えるだけで。
ホッと安心した私を見てアルマンさんは何時もの豪快な笑顔を見せてくれました。そしてテーブルをそばに置いてくれました。
「すぐにキッカたちが迎えに来ます。それまで此処で何か飲み食いして待っていてくれますか?」
「はい。・・・アルマンさんは?」
「ちょっと『兄弟喧嘩の続き』をして来ます」
「お気をつけて」
私の言葉にニヤリと笑んでから、私の周りに結界石を置いて周囲の声から遮断してくれました。
ずっと「王兄殿下を止めて下さい」と言われていました。でも『言ってる本人たちが止めようとしない』のに、なぜ私が止めに入らないといけないのでしょう?そして「飲み食いして待っていて」とアルマンさんに言われた時に「では何か用意します」と言われましたが・・・。それを遮るように結界を張ったのですから、アルマンさんは『何が含まれるか分からないから自分の作ったものを飲み食いしていてほしい』という意味なのでしょう。
自分に浄化魔法を掛けると、収納ボックスからフルーツパフェを取り出して、ポンタくんのギルドで作ってもらった『パフェ専用スプーンと専用フォーク』でクリームを掬ったりフルーツを刺してクリームをつけて頬張ったりしていました。
・・・なんでしょう。さっきまで「王兄殿下を止めて下さーい」と騒いでいたのに、今は私の食べているパフェに視線が集中しています。中には口をだらーんと開けて涎を垂らしている人もいます。ハッキリ言ってみっともないです。そのため、彼らからパフェを遮るように姿見をドーンと置いて見ました。もちろん鏡面を向けてあげたら、やっと自分たちの『みっともない姿』に気付いたようです。顔を背け慌てて身形を整えていますが、皆さんの記念写真はステータス機能で撮影済みです。
・・・後でキッカさん経由でアルマンさんに送ってあげましょう。
フルーツパフェを食べたあと、甘くなった口の余韻を楽しみつつ紅茶を嗜んでおります。姿見をしまったので私が何をしているのか見えていますが、チラチラと見られてて鬱陶しい!!です。
まだ兄弟喧嘩の真っ最中なのに、この人たちは何をやっているのでしょうか?止める気がないようですね。
暇なので『世界全集』を開いて、この国のことを調べてみました。
簡単にいうと、私の世界でいう『中東地域』に近いです。砂漠化しているため、果樹が育ちにくいようです。ですが、30年前までは実り豊かな国だったようです。
私たちが召喚されたエイドニア王国に聖女として召喚された人たちの一部が自分の知る知識を使って導いてきた努力の成果でしょう。それらが隣国のこの国にも齎されて豊かな国になれたのでしょう。・・・30年前までは。
それだったら、私はゲームの知識で魔法や薬のパワーアップ関係で、『親友』はファッション関係でしょう。この世界には一般市民が化粧をしません。化粧は『娼婦たちの商売道具』と考えているからです。そのため、高校生か大学生の彼女が召喚されたのでしょう。
・・・この国では貴重なフルーツを大量に使った『フルーツパフェ』を食べていたから、いい歳しているのに『みっともない顔をして涎を垂らしていた』のですね。いえ。彼らはフルーツの味を知っているでしょう。その舌は覚えているのでしょう。だからこそ、あの表情だったのでしょう。
輸入すればいいのですが、前王が勢いで国交断絶にしてしまったため、それも出来なくなってしまいました。前王は飢えて苦しんでいる国民を見ることはなかったのでしょう。そして現王も。だから、お城の外で苦しんでいる人たちを見ていないのでしょう。
「我が奴隷にして専属の薬師にしてやる」
それがすべてでしょう。治療が出来る人たちを城に閉じ込めたために、人々が苦しんで救いを求めているのでしょう。
残念ながら、サボテンとはまだお会い出来ていません。ウチワサボテンのような食用のサボテンが見つかればいいですが。アロエでもいいです。砂漠地帯でも育つため、栄養もミネラルもある果肉は今のこの国の人たちには必要でしょう。
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