私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

文字の大きさ
上 下
72 / 789
第四章

第85話

しおりを挟む

食事と共に聞かされたエリーさんからの報告は、消化不良になりそうな内容でした。

セイマールの交渉人一行は、「王太子が何者かに精神攻撃を受けた!」と騒いだそうです。最初は私を犯人だと騒いだそうですが、王都へ戻って来た時に私に罪状がついていなかったことが『鑑定スキル所持者エリーさん』の証言で判明しました。さらに『女性を追い回した』として全員に罪状がつけられました。あわせて、審神者さにわによるジャロームの少女殺害やそれまでの経緯もすべて『証言』をされて罪状が追加されました。その結果『交渉人全員国外追放』となりました。罪人として枷に繋がれて国境まで『罪人用馬車』で護送されて行ったそうです。そして荷馬車が二台。一台には回収に来た大半が護送される一行と共に国へ戻りました。
護送馬車は国境までです。その先は自力で城まで辿り着いてもらうことになります。あの『壊れた王太子』を人の目に触れさせることは出来ないでしょう。そのために荷馬車で先回りして回収するようです。

実はジャロームで待っていた時にゴタゴタがあったそうです。事情をよく知らない回収隊が、私の乗っている馬車が皆さんに守られているため興味本位から襲おうとしたそうです。ですが、アクアとマリンの前に呆気なく敗北。連絡を受けて駆けつけたエリーさんたちから、さらにボコボコにされたそうです。そして、ジャロームで『王太子一行が何をしたのか』をの当たりにした同行者たちから話を聞いて、初めて自分たちが『王太子一行の尻拭いに来た』ことを知ったそうです。

「この馬車で守られているのは、王太子一行に追い回された被害者だ。さらに、殺害された少女が遺棄された場所を知って、ひとりで少女を回収して遺族の元へ還された。・・・本来なら我々がすることだ」

「すまないが我らに時間を下さい。彼らにも人々の、遺族の悲しみをじかに知ってもらう必要があります」

エリーさんたちに連れられてジャロームに入った彼らは、心をズタボロにされて戻って来た。彼らの家族や身近な知り合いに、殺された少女やその姉妹と同じ歳の子がいた。彼らの中には「少女と言っても二十歳はたちに満たないだけだろう。幼くても17・18歳だろう」と思っていたらしい。
そして知った。被害者は13歳の少女だったと。姉や妹を庇ったために連れ去られた。そして全員に犯されて殺され、遺体を捨てられた。

「貴方たちに罪はない。しかし私は貴方たちを。王太子たちを。セイマールを許すことは出来ません。憎みます。恨みます。そして・・・謝罪を受け入れることは出来ません。貴方たちだけが反省しても国全体が反省しなければ、同じことが繰り返されて、娘のような被害者がまた現れるだけです」

そう言われて、謝罪は拒否されたそうだ。しかし墓地をまいることは許された。墓地に行ったらすぐに場所が分かった。真新しい墓石に色とりどりの花が供えられていた。少女が沢山の人々に好かれていたあかしだった。

「・・・傷だらけだったであろう娘の身体を綺麗にして、私たちの元に連れ帰ってくれた女性に感謝します。名も名乗らず礼も受け取らず。さらに心に傷を負った娘たちを励まして下さいました。その方が仰ったのです。「憎んでも悲しんでも。亡くなった人は二度と還らない。だから『今いる家族』を支えて生きてください。娘さんが守りたかった家族を。そして何時いつか人生を終えて娘さんと再会した時に、娘さんに胸張って『頑張ったぞ』と言えるように」。私たちはその言葉を胸に刻んで、悲しみを乗り越えてみせます」

その言葉は回収隊にとってツラいものだった。
王太子一行が仕出かした行為は、謝罪なんかで赦されることではない。うしなわれた生命は謝罪して還って来るものではない。
・・・改めて、王太子一行の罪の深さを思い知らされた。


「回収隊の連中は、国に帰ったら事実をありのまま報告するそうよ。王太子もそのまま廃嫡だろうって。・・・エアちゃんはあれ以降会ってないから知らないと思うけど、王太子は退行症状赤ちゃん返りしていたわ。それは治療師たちでも回復出来なかった。つまり『神の罰が落ちた』ということよ」

「神の罰が落ちた時点で、セイマールの交渉人一行は罪を重ねていたと判断されたわ。回収隊が一行の罪を認めて謝罪したことで、交渉人一行は罰を受けることになったわ。・・・他の一行も神の罰を受けたから言い逃れは出来ないわね」

・・・どんな罰を受けたのでしょう?
そう聞きましたが、目撃したフィシスさんが口を閉ざしているため詳しくは知らないそうです。

「これからエリーとキッカが城に呼ばれているけど、たぶんセイマールに行って直接交渉するなり交渉決裂させて来いってことよね」

「たぶんね。エアちゃんも一緒に行くことになるわ。問題は、私が同行出来るかどうかってところね。他国との交渉が始まっているし。エアちゃんの希望通りに交渉するから心配しないでね」

「・・・この国でも毛糸は手に入りますか?」

「この国なら北部から仕入れることが出来るけど流通は少ないわ。さっき、食堂を出て行った連中がいたでしょう?たぶん毛糸が手に入らないか冒険者ギルドに依頼しに行ったのよ」

「そんなに編んで欲しいのですか?」

「二人が羨ましいんでしょう」

「エアちゃん。大量の毛糸でいいの?」

「はい。大量の毛糸がいいです」

「あの国は特産品が毛糸や毛皮しかないから、毛糸で交渉出来るなら大喜びね」

私も毛糸で交渉出来るなら大歓迎です。




屋台の広がっている広場に着くと、ソレスさんが私について、オルガさんとボンドさんが仕入れに向かいました。

「ソレスさんはいいのですか?」

「ええ。オルガかボンドが戻ってきたら交代するから大丈夫ですよ。ではエアさんの屋台巡りに向かいましょう」

そう言われて、端の屋台から品揃えを見て回りました。
どの屋台にも白菜が大量にありました。屋台の人に聞いたら「売れ残りだ。白菜は料理に向かないからな」と言われました。

「エアさん?『白菜料理』がありますか?」

「はい。・・・此処で白菜の買い占めしてはダメですよね」

「そうですね。では店主。此処で野菜を売ってる屋台全員に「終わったら『鉄壁の防衛ディフェンス』に野菜をすべて持ってきて欲しい」と伝えてもらえますか?場所は商人ギルドで確認できます」

「ソレスさん、いいのですか?」

「ええ。完全に『売れ残り』ですから。すべて買い占めようと、誰にも文句は言われませんよ」

白菜のクリーム煮もいいですが、鍋物も食べたいですね。白菜と豚肉のミルフィーユもいいですが、寄せ鍋も身体が温まっていいです。




「エアさーん。皆さんが野菜を持って来てくれましたよ」

部屋をノックしてユージンさんが声をかけてくれました。

「ありがとう。ユージンさん。・・・何処に行けばいいですか?」

「鍛錬場に集まって様々な野菜を広げていますよ。初めて見る野菜が多いので心配ですが」

「大丈夫ですよ。アミュレットの鑑定機能が手伝ってくれますから」

「鑑定が?」

「そうですよ。煮物や炒め物に合うって表示してくれます」

「へえ・・・。初めて知りました。鑑定スキルを持ってる連中に見てもらいましょう」



鍛錬場に着くと、すでにオルガさんたちが野菜を選んでいました。白菜。白菜。いっぱいある白菜。その中に、やっと見つけました!探し続けていた大根!

「こんなもんでも買うのか?」

「売ってるのでしょう?」

「そりゃあ売っているが・・・」

「じゃあ売ってください!全部!」

「・・・マジか?」

「売り物でしょう?」

「・・・そりゃあそうだが」

「だから売ってください!」

「どうしたんですか?」

私たちのやりとりに、ボンドさんが心配して寄って来ました。

「大根、売ってくれません」

「いや、売ってもいいんだが・・・。こんな薬味程度にしか使い勝手のないもんを「全部売ってくれ」と言われても・・・」

「エアさん。料理に使うのですか?」

ボンドさんの質問に頷くと、ボンドさんは鍛錬場全体に聞こえるように大きい声で「すみませーん。大根を売ってる屋台はありませんか。あったら売ってくださーい」と言ってくれました。

此方コッチで売ってるぞ」

「ウチも50本だが売ってるぞ」

「さあ、エアさん。他にも売ってる屋台はありますから見に行きましょう」

「はい!」

ボンドさんに促されて「此方コッチだ」と手招きされた屋台へと行って、大根の買い占めをさせてもらいました。


「あれ?最初に大根を売ってたお店の人がいない」

「ああ。彼処あそこの野菜はオルガが買い占めました。エアさんが料理に使うのですから、私たちも購入しますよ」

「売り切ったため帰ったようですね」

オルガさんが笑いながらそう言っていましたが、売り切っても残っている人たちがいます。皆さんの話し合いで、5日後にまた鍛錬場で『野菜の買い占め』をすることが決まりました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。