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第四章
第84話
しおりを挟む「エアちゃん。『お楽しみ』は話の後からにしてね」
商品リストと見本を見比べていたら、アンジーさんに笑いながら止められました。
アーモンドを見つけたのです。輸入品だそうで『へんとう』とありました。『扁桃』と書きますね。別名で『巴旦杏』とも言います。同じ字を書く李もあるそうですが、アーモンドは『バラ科』で全然違うと学校の『漢字ゲーム』で習いました。何故この字を覚えているかというと、お祖父ちゃんが漢字で海外の国の名前や都市名を書いて『なんて読むか』というゲームをした時に、お祖父ちゃんが書いた『巴里』と書いて「アーモンドだー」と言ったからです。お祖父ちゃんが笑いながら「アーモンドは『巴旦杏』だよ」と書いて教えてくれたのです。
その時に、アーモンドは仁と呼ばれる種子の苦いのが薬用で苦くないのは食用だとも教えられました。
これが食用なら煎ってローストして潰して・・・と喜んでいたのです。
「今から・・・」
「作るのは後にしてね」
「食用か薬用か・・・」
「調べるのも後よ」
「さあ。テーブルの上を片付けて下さい。昼食が出来ましたよ」
オルガさんが料理の乗ったカートを運んで近付いて来ました。このカートは私の案です。喫茶店で一度に料理を運ぶのは大変です。そのため、料理を運ぶ用に作ったのですが、他業種でも工具や道具を乗せて運ぶなどで使えるとしてアイデア登録されました。『魔法の車輪』で振動がないため、崩れたり揺れたりしません。ユーシスくんが料理を。マーレンくんが飲み物を。それぞれ、問題なく運んで行くことが出来ました。
「ああ。ありがとう。ほら、エアちゃん。テーブルの上にあるものは収納して」
隣に座るアンジーさんに促されて、すべて収納しました。
いま私が座っているのはアンジーさんとシシィさんの間です。エリーさんが対面の中央、私の向かい側です。シシィさんに促されて座りましたが、後から誰か来るのでしょうか?
・・・ミリィさんとはずっと会っていません。
アンジーさんとシシィさんとは今日久しぶりに会いましたし、フィシスさんも時々話し相手に来ていました。その時に、フィシスさんたちは忙しいと言っていました。冬に向けて領地に戻る貴族たちや、朝市で収穫した農作物を売り切ろうとしている人々。それにあわせて、犯罪やトラブルも増えるそうです。エリーさんもキッカさんも、本格的な冬が来る4ヶ月後までに『交渉関係』を大方片付けられるように進めているそうです。
オルガさんが出してくれた昼食は、バケットのサンドウィッチとミネストローネ、そして生野菜でした。そろそろ生野菜はなくなるようです。
「ご飯食べたら、屋台を見に行ってこようかな」
「何か欲しいものでもあるの?」
「野菜など。果物も買いたいですし」
「私はこのあと『交渉関係』でキッカと城に呼ばれているし。アンジーたちも守備隊の仕事に戻るでしょう?」
「一緒に行くのは大丈夫だけど、買い物には付き合えないわ」
「ひとりでも大丈夫」
「「「じゃないでしょ!」」」
エリーさんたちに声を揃えて否定されました。
「いーもん。いーもん。ダンジョンに入って食材獲って来るから」
「エアさん。屋台に行くならオレたちと一緒に行きますか?オレたちも仕入れに行くので」
「ああ。じゃあエアちゃんをお願い出来る?『この前のこと』もあるから、出来るだけ周囲には気をつけて」
「ええ。分かっています。エアさんもそれでいいですか?」
「はい。お願いします」
『この前のこと』・・・。それは喫茶店でお客さんを楽しんでいたら、激しく抗議を受けたことを指しています。
「あんなに色々アイデア登録されるのはおかしい!不正を働いているに決まっている!」
私の知らない、顔面偏差値だけ高そうなカッコつけ男が私たちのテーブルにやって来て私を指差してきました。
「何も言い返せないか!図星だから言えないんだろう!」
呆れて黙っていたらさらに増長したようです。
周囲が白い目で見ていても『注目を受けている俺ってカッコイイ』と思っていたようです。あとで分かったことですが、一緒にいた女性のひとりに片思いしていて『不正を暴く俺に惚れるだろう』という下心ありまくりの暴走だったそうです。最終結果は守備隊詰め所に連行です。其処で暴走理由を証言しました。
・・・まあ、速攻で振られたそうですが。
もちろん誰も彼も。仲間たちでさえも『此奴はアホか?』と思ったそうです。ええ。仲間たちは『思っただけ』で止めることはしませんでした。・・・そのため、神から『同罪』と見做されたのです。
そうなのです。神が管理していることなのに『不正だ!』なんて。たくさんの人たちの前で、私ではなく神にケンカを売ったんです。侮辱したのです。それを仲間たちも窘めずに見ているだけだったのです。・・・バカですよね。
この時は、私ではなくパパさんが反論してくれました。
「彼女のアイデアはすべて、ウチの子が手伝いをしやすくなるように考えてくれたものだ。貴方のように自己中心的で他者を思いやることも出来ない者が、神の認めるアイデアを考えられると思わない。そしてこの店は彼女の店だ。店主として、彼女を否定する貴方方『アイデア発見ギルド』の利用を全面に禁ずる」
パパさんの『宣言』に、店内で待っていた10人近い人たちが店外に弾き出されました。
「アレは『商売の神』が店主の宣言を認めたということです。連中は二度とこの店に入ることは出来ません」
驚いていた私に、同行していたユージンさんがコッソリ教えてくれました。それにエリーさんとネージュさんがウンウンと頷いています。
「それだけじゃ済まないわね。『アイデア発見ギルドがアイデアを管理している神にケンカを売った』んだから・・・。少なくとも、あの男はすべてのアイデアが使用出来なくなるわ。一緒にいた連中も同罪ね。現時点でギルドに所属している連中は、何かしらのペナルティを受けるわ」
「そういえば以前、商売の神と冒険者の神と権利の神にケンカを売った人は結局どうなったんですか?たしか恋愛の神など様々な神に、短時間で同時にケンカを売ってましたけど・・・」
「ああ。アレね。権利の神はひと月で許したわよ。でもエアちゃんの料理やレシピは永久に使えないわ。ひと月の間にエアちゃんや喫茶店に謝罪しなかったから『反省していない』と判断されたの」
「冒険者の神は『冒険者が取得したアイテムは使えない。食材を口に出来ない』という罰ですね。冒険者が取得した装備や防具はまず使わないので問題はないですが・・・。素材で使われていたらアウトですね。あと、制限の対象はアクセサリーですかね。鉱石や貴石、宝石のほとんどは冒険者が取得したドロップアイテムですから」
「商売の神は、どの店にも入れないようになりました。もちろん、働いていた店にも入れないため退職です。屋台や露店も商売の神の管轄ですから利用出来ません。付き合っていた17人の女性全員からも振られて、住んでいた女性の部屋からも追い出されました。これは恋愛の神の罰ですね。今は王都を出て、農家をしている実家に戻りました。まあ、露店や屋台に手を出せませんが、自分で作った野菜を食べるのは問題ないですからね」
「私を『18番めの彼女にしてやる』って言ってたけど、現在進行形で付き合っている彼女ってことだったんですね」
「神様も、ちゃんと『救われる道』は作っているんですけどね。それで反省してくれたらいいのですが」
「・・・それ以前の問題ではないですか?」
私の言葉に、エリーさんたちは不思議そうな表情になりました。
「今まで私に何かしらやってきた人たちで、『ゴートゥーヘル』以外は私にひと言も謝っていませんよ?」
そうなのです。今は南部守備隊で見習いをしている『ゴートゥーヘル』の9人は、王都に戻った後に全員で謝罪に来たのです。私に関する人身売買の証言をした上で、未遂だったこともあり、罰を『南部守備隊預かり』で最終決定を受けたそうです。
「今は南部守備隊の寮に住んでいます」
「色々と迷惑かけてきましたが、これからは『守る側』として皆さんに貢献していきます」
そう言って全員で頭を下げて帰って行きました。
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