私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第四章

第80話

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「・・・ミリィさん」

「まだダメ」

王都に戻りアジトに戻ってから、応接室でずっとミリィさんに抱きしめられています。すでに1時間。何度謝っても「ダメ」としか言ってもらえません。

「ミリィさん」

「ダメ」

「・・・帰ってきちゃダメだったの?」

「そんなはずないでしょ!」

バッと身体を離されて両肩をがっしりと掴まれて「どれだけ心配したと思っているのよ!」と叱られました。でもミリィさんは・・・。

「止めなさい。ミリィ。事情はエリーやアンジーたちから詳しく聞いたでしょう?」

「でもフィシス!」

「ミリィ。エアちゃんは「ただいま」と言ったのよ。貴女は「おかえり」ってエアちゃんに言ってあげたの?」

シシィさんの言葉の通りです。「ただいま」と言っても「おかえり」って返されないということは『帰って来なくても良かった』ということです。
・・・誰よりミリィさんにそう思って欲しくなかった。

「・・・!・・・ちゃん!」

なんか、もう「・・・疲れた」。
セイマールの交渉人たちに追い回されるのも。料理人としてレシピの無償譲渡や使用料免除を強要されるのも。薬師やくしとして貴族たちに絡まれるのも。

「もう・・・いたくない」

この王都にも。この国にも。・・・こんな世界にも。
今だったら『あの子』が自殺したのも分かる気がする。この世界に連れて来られて。でもこの世界の人たちは『自分のこと』を最優先にして、相手に感情があることや思いやることなどしない。そして『自分の頼み命令が断られるハズがない』と信じて思いこんでいる。
あの廃嫡王子がそうだ。
許可なく『聖女召喚』をして、気に入らないからと私を拒否して城から追い出した。そして『聖女として残された』彼女を部屋に連れ込み性的な意味で襲った。未遂だったそうだが、それを知った前国王は一切謝罪しなかった。
絶望するのに十分だろう。
この世界に連れて来られ、二人きりだった私たちを引き離し、「逆らえばもうひとりを殺す」と脅され襲われた。気持ちの整理がつかないまま会った国王は自己保身に走り、言い訳や開き直りを展開するだけで彼女に対して誠意も謝罪もない。
・・・たった数日。片手で足りる短期間。それだけでも自ら死を選ぶのに十分だったのだろう。

ぽふんっと柔らかい『なにか』で覆われた。いい匂いで気持ちが落ち着いていく度に、思考の沼から浮上していく。絶望の泥沼から引き上げられサルベージされていく。そして、静寂から喧騒へと切り替わってスイッチしていく。


「エアちゃん。大丈夫?!」

いま自分がいる場所を確認しようと思い顔を上げると頭上から声がしました。

「・・・・・・アンジーさん」

ああ。この暖かさのある香りはアンジーさんのつかさどる花の香りです。

「・・・もう少し」

もう少し、この香りに包まれていたい。気持ちが落ち着くまで。せめて私の中から絶望感が消えるまで。

「いいわよ」

抱きついた私をアンジーさんが抱きしめ返してくれました。ふわっと別の花の香りがしました。シシィさんの『気持ちの落ち着く花の香り』です。私の気持ちが少しでも落ち着くように、そばにいてくれるようです。



その状態でどれくらいいたでしょう。絶望感はすでに薄れ、アンジーさんとシシィさんの優しい花の香りで気持ちは癒されました。

「エアちゃん。夕食に何か食べたいものでもある?」

そう聞かれて首を左右に振りました。食欲はなく、今はただ何も考えずに眠っていたいです。

「そう。エアちゃんなら収納ボックスに料理があるし、厨房で料理も出来るからいいわね。もう部屋に戻ってゆっくり休んで大丈夫よ」

「部屋まで送るわ」

アンジーさんに支えられるように立ち上がり、シシィさんと二人で私を守るように両側から支えて部屋の前まで送ってくれました。

「エアちゃん。ずっと移動で疲れたでしょう?何も気にしないで休んでいいわ」

「そうね。部屋と薬学やくがく施設、もしくはテントの中で好きなことをして過ごしていて大丈夫よ。何かあったら連絡してね。此方も何かあったら連絡するから」

「はい。ありがとうございます」

お礼を言って部屋へ入りました。部屋の中に入ると疲れが出てしまい、今日の汚れを『洗浄』で綺麗にしてからベッドに潜り込むとそのまま眠ってしまったようです。
だから気付きませんでした。アジトの外で騒動が起きていたことも。さっきまでいた応接室から、何時の間にかミリィさんやフィシスさん、エリーさんがいなくなっていたことも。部屋に戻るまで、誰にも会わなかったことも。



日中はテントの中で過ごして、寝る時だけ部屋に戻るかテントの寝室で寝ていました。
薬学施設には先日のことがあったため、怖くて行けなくなっていました。馬車の中でエリーさんから「廊下を作って繋ぐ」と聞いています。たった10メートル。それでも危険だと気付いたのと、冬に雪が積もれば行き来が困難になった時に『ある心配ごと』が出てきたからです。その心配も「エアちゃんが薬学施設から戻らなくなる」ということでした。
まだ「完成した」と聞いていないので、テントの調合室を使うことにしました。
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