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第四章
第77話
しおりを挟むエリーさんが馬車に戻ってきたのは、出かけてから五時間後でした。ですが、すでに夕方のため、このまま『ジャローム』に泊まるようです。
「テントに?」
「そうね。アンジーとシシィは宿に泊まるけど、さすがに全員は泊まれないわね」
「馬車で寝てたら、そのまま王都に向かってもらえますか?」
「そうね。ちゃんとテントに入って結界も張るって約束するならね」
「でもエアちゃん。夕食は一緒に食べるからね」
「回収隊の人たちは?」
「連中は別の宿よ」
「子供じゃないんだから、そこまで面倒は見ないわ」
「でもエアちゃんは『私たちの妹』だから、いくらでも面倒見るわよ」
そう言いながら、シシィさんが抱きついてきました。
「そうね。エアちゃんは私たちの『末っ子』だから」
「じゃあ、『お父さん』は精霊王さまですか?」
「うーん・・・。精霊王は父親というより『近所のオヤジ』じゃない?」
「あ、確かに。もしくは『ダメ親父』よね」
皆さん。『精霊王さま』という高位な立場より、『シェリアさんとフィシスさんの父親』という身近な立場のようです。
「あ。そうそう。エアちゃんに悪いけど、フィシスに『バカに攻撃魔法を受けた』って教えちゃったから」
「・・・ミリィさんは?」
「泣いて怒った。フィシスと一緒に。さすがにキッカでも止められなかったみたいよ」
「それでどうしたんですか?」
「心配しなくても大丈夫よ。以前精霊王に『エアちゃん用のアミュレットを作る』って言ったでしょう?それを作っているみたい」
「ポンタくんに作ってもらったんですか?」
「いいえ。アミュレット自体は普通のものよ。違うのは『何を付加したか』ってことね。多分『悪意ある攻撃魔法を無効化する』って効果は付けているわ」
「悪意ある攻撃魔法・・・ですか?」
「ええ。今回エアちゃんが無事だったのは『交渉人の保護』が効いたからなのよ。それだって何時までも続く訳ではないのよ。交渉決裂後に逆恨みで攻撃されたら防げないわ」
ああ・・・良かった。私に攻撃魔法が効かなかったのは『最後の聖女だから』じゃなかったようです。これなら、交渉人一行に責められても逃れられそうです。
「エアちゃん。その効果は『魔物相手』に効かないわ。間違っても『無敵状態』にならないから、『ボールに入って魔物に体当たり』なんて・・・考えてたのね」
えーっと・・・。赤と緑の兄弟で有名な某ゲームで『星を取ったら一定期間無敵になった時』に流れるテンポの速い曲が頭を過ぎりました。それと同時に、全身がピカピカ光って『敵に体当たり』している笑顔のアクアとマリンを思い浮かべてました。
「いい?フィシスたちが作ったアミュレットだって『いつでも安全』じゃないからね?」
「そうそう。作ってるのは『真面に見えてしっかり抜け作姉妹』のシェリアとフィシスなのよ。絶対「こんなつもりじゃなかったのー」って言いそうだわ」
「『言いそう』じゃなくて『絶対言う』。そう断言できるわよ」
皆さん、評価が辛口ですね。・・・今まで、酷評されるだけの『何か』を仕出かしているのでしょうか?
何方にせよ、アミュレットに依存し過ぎないように注意しましょう。
シシィさんとアンジーさんが泊まる宿に食堂はなく、私たちは居酒屋に近い『食事処』で夕食を食べることになりました。
町へ入ったらそのまま宿の馬車置き場に馬車を置くことが出来ました。部屋が足りないため、部屋に泊まるのはテントを持っていないアンジーさんとシシィさんになりました。で、残りは馬車で寝ると伝えたところ、宿の人から申し訳なさそうにされました。この町はハイエル国に近いため、両国の商品を輸出入する行商人が多いそうです。そして、彼らはテントを持っていないため、宿に泊まるそうです。
「冒険者はどうしているのですか?」
「テントを持っている冒険者は城門前の広場にテントを張っています。テントを持たない冒険者は、バーなどで飲み明かすようです。中にはテントを持つ冒険者に『一晩の宿』を借りる人もいるようですが・・・。それが原因でトラブルになることもあります」
「そりゃあそうよね。『他人のテントに泊まるのは、どんなに親しい間柄でもルール違反でマナー違反』だもの。この町の冒険者ギルドは取り締まりもしてないの?」
「『冒険者は他の冒険者に迷惑をかけてはいけない』ってルールも破ってますよね?」
「そうね。・・・変だわ。この町からそんな報告書が届いたことがないんだけど」
「不名誉だから揉み消しているのでしょうか?」
「それは十分あり得るわ。・・・エアちゃんが此処に来る前に調べさせた方が良さそうね」
「エリー。これは徹底的に『この国のすべて』を調べた方がいいみたいね」
「まったく・・・。守備隊は東西南北に分かれているからいいけど、冒険者ギルドはこれからが大変だよ」
「私も手伝う」
「エアちゃんは手伝わなくていいわ」
「ダンジョンの調査は?」
「其方は『城の連中』が動くわ。でもダンジョンの調査を依頼された時はエアちゃんも連れて行くから安心して。どうせなら踏破したいでしょ?私たちは手を出さないから『エアちゃんらしく』進んでくれればいいからね」
私も今は『初心者用ダンジョン』を専門にクリアしています。ですが、何時までもソロでダンジョンを攻略出来ないでしょう。そのためにも、『少しでも気心の知れた人たち』とパーティの疑似体験を経験していこうと思っています。
まだ夕食には早いため、二時間ほど露店街を歩き、フルーツや食材を購入して回りました。此処で見つけたのは輸入品のチョコレートでした。ビターで甘さがなかったのですが、それは十分加工できます。と言うかします。
そして、その店で見つけました、この世界では『カリー』と呼ばれる香辛料。舐めさせてもらって確信しました。『カレー粉』です。正確には『外観がヤシの実で中身がカレールゥ』です。炒め物の調味料に使うそうですが、あまり売れ行きも良くなく、興味を持った私に「半値以下で全部売りたい」と言ってきました。
もちろん購入しました。『ハイエル国からの輸入品』だそうです。『ハイエル国から欲しいものリスト』に加えておきましょう。
「エアさん。そろそろ戻りましょう」
「ちょっと待ってね。あと一軒」
私の護衛としてついて来てくれたツミアさんが苦笑しながら「あと一軒だけですよ」と言ってくれたため、気になっている屋台に向かいました。そこに並んでいたのは植物の種や苗木でした。ジッと見ると、アミュレットの鑑定機能が植物の名前と詳細を表示していきました。名前は違いますが日本でも聞いたり見たりして馴染みのあるハーブや、バラに似た観賞植物です。そういえば『虫よけ』はカミツレに似た植物から作られています。他に似た植物があってもおかしくないでしょう。
苗木は全種類を一束20本。種は全種類を一袋50から80粒。小分けで販売されていないので大人買い状態です。
「薬師か何かかね?」
「はい。これらは何処かの特産品ですか?」
「ああ。『アルケミア』の特産品だ。気温と湿度が高い場所じゃないと育たないらしくてな。残念ながらこの国では育てられんから、こんな形で持って来るしかないんだよ」
「他の人たちはどう使っているのでしょう?」
「種なら土魔法で数枚の葉を出したり、木は枝や葉を出しているな。そうそう。この冊子をあげよう。買って貰った木や種のことが書いてある」
「わあ。ありがとうございます」
「良かったですね」
はい。
「その本を読むのは帰ってからにして下さい」
「はい。じゃあ、ありがとうございました」
「フレンドの『取引店』から購入出来るからな。『シュツル』という名だ」
「はい。分かりました」
夕飯時になり、人の増えた通りをツミアさんから離れないようにくっついて『食事処』へと向かいました。
鑑定の詳細に、ラベンダーやバラに似たものがありました。そのため香水でも作れたらいいな~と思いました。それをお風呂に一滴垂らしたり、料理に、というかスイーツにも使えないかと考えています。
合流したアンジーさんたちと食事をしてる時にそう話したら、「エアちゃんらしい」と笑われてしまいました。
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