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第三章
第64話
しおりを挟む10日後。
状況報告のために集まったんだけど・・・。
「久しぶりにエアちゃんのご飯だわー」
「やっぱり美味しいわね。此方は新作なの?」
「『ロコモコ丼』と『トリのバジル炒め丼』は初めてですね」
「ズルいわよね。キッカたちはずっと食べていたんでしょ?」
「『虫使い女』が現れる前までです。それに唐揚げや竜田揚げがほとんどですね」
「フライドポテトにニラレバ炒め。カツ丼やたまごとじカツ丼、チャーハンなども作って送りました。毎日鍛錬してるって聞いたから。善哉の入った寸胴鍋も送ったことがあります」
「カロリーが高い料理は鍛錬で消費したエネルギーを回復させてくれます。料理は昼に食べていましたから、午後からの鍛錬も一部の連中以外は活気がありましたよ」
その一部とは『ゴートゥーヘル』の9人のことでしょう。彼らは「『男娼』と10年間の『王都守備隊見習い』とどっちがいい?」と聞かれて後者を選びました。そのため、今まで以上に鍛錬を頑張っているそうです。
「そういえばエリーさん」
「なあに?」
「『ゴートゥーヘル』って冒険者を剥奪されたんでしょ?また冒険者に戻れるの?」
「戻れないわよ。でも『雑用係』として冒険者パーティで働くことは可能よ。でも連中は守備隊で生きていくでしょうね。レベルも魔法も封じられてゼロになってもね。それから鍛錬で身に付けた能力で強くなれるのよ」
「・・・それまでの経験はリセットされて、また『レベル1』からってことですね」
「そうよ。ただ『魔法とステータスは二度と使えない』けどね」
「『ゴートゥーヘル』の連中には体術を教えている。守備隊は町中で武器を使えないからな」
「建物内での捕縛なんてよくあるからね。酒場で酔っ払いのケンカとか」
「ミリィ隊長の『一方的なストレス発散の後始末』とか」
「フィシス隊長の『理不尽なストレス発散の後処理』とか」
「・・・口を滑らせちゃった元隊員の『教育的指導』とか?」
「「え?・・・あ!」」
私の声に振り向いた二人組は、真後ろに立つミリィさんとフィシスさんに気付いて失言に気付いたようです。
「貴方たち。覚悟は出来ているんでしょうね」
「もちろん、出来ているよなー」
「出来ていなくても許さないけどね」
「「うっわー!!!」」
「待てー!」
「逃げ切れると思ってるのかー!」
「すごいですね。本人がいるのに堂々と言えちゃうんですから」
「愚かとしか言いようがないわね」
「エアさん!二人を止めて下さい!」
「・・・頑張って」
四人は広い『訓練場』の中で『鬼ごっこ』を始めました。
ですから、ただいま食事中ですって。
ああ。言い忘れましたが、此処は『鉄壁の防衛』の訓練場です。部屋の中で30人以上集まって話し合いをするのに十分な広さがありますが、昼食をとるには狭かったのです。
ただ、『ゴートゥーヘル』のメンバーは結界が張られた中です。一応部外者のため会話を聞かれないようにするためですが、ミリィさんたちの「キッカー。コイツら殺っちゃっていいかー?」という度に固まって震える姿は、あの日、宿で私に言いたい放題言っていた姿から程遠いです。
「あのねー」
「まえに おねえちゃんが あそびにきたときねー」
「「おねえちゃんをイジメたんだよー」」
うん・・・。ミリィさんたちに笑顔でばらしますか、キミタチ。
「・・・エアちゃん。それ本当かしら?」
「「ホントだよー」」
・・・何時からキミタチが『エアちゃん』になったんですか。っていうか、皆さん『笑顔が怖い』です。
「その件に関してはすでにアクアとマリンの二人が制裁を加えていますし、『大玉ころがし』というバツを此処にいる皆さんから受けていますよ」
「ああ。やったな」
「久しぶりに大笑いしたな」
「「楽しかったー」」
「その前の特訓が尋常じゃなかったからな」
ミリィさんたちは興味があったみたいですが、昼食と話し合いが済んで時間があったら。ということになりました。
そして、ミリィさんたちの襲撃から守るために結界を張った、ということです。
「エアちゃん。『フルーツポンチ』を食べてみたい」
「はい」
ミリィさんたちは、散々追い回して一発ずつ殴ってから戻ってきました。
私たちのテーブルにフルーツポンチの入ったボウルを置いてから、席を立って各テーブルにフルーツポンチを置いて行きました。そしてアクアとマリンには『いちごムース』。そしてアルマンさんは磯辺巻きを15個ほど。・・・今回は誰にもあげる気はないようです。
「エアさん。ちょっといいですか?コイツなんですが」
自分の場所に戻ってチョコパフェを頬張っていたら、オルガさんがレシピを持って来ました。餅を焼く時に焼き網にくっついてしまうそうです。
「あー。説明書読まない人だー」
「え?」
「焼き網に注意書きが書いてあるのに・・・」
そう言うと、オルガさんが慌てて訓練場から出て行きました。少しすると、新品の焼き網片手に戻ってきました。
「すみません。書いてありました」
焼き網につけてある『使い方』には大きな赤い字で『使用時に網に油を塗るとくっつき防止になります』と書かれています。
「ちゃんと説明書きを読まないと、あとで困るのは自分ですよ」
「はい。すみません」
「じゃあ、ひとつだけ追加。『焼き餅』のレシピにありますけど。『フライパンで焼くときは、フライパンが冷たい状態で隣と離して並べる』のと『絶対弱火』を忘れないでくださいね。フライパンも『くっつき防止』が付与されていなければ、油を引くのを忘れないでください」
あれ?表情が変わった?
「エアさん。オルガたちは、すでに一度フライパンで焼いた時に失敗してる」
「それは『隣と離さなかったから、くっついて『大きなおもち』になった』のでしょうか?そして『慌ててしまい焦がした』のでしょうか?それも『真っ黒にしてしまった』のでしょうか?それとも弱火にしないで焼いたから膨れすぎちゃって、結局『ぺったんこ』になりましたか?」
そうアルマンさんに聞いたら、全員に大笑いされました。
「エアさん。それ全部当たってる」
初心者がよくやる失敗を並べただけですが、すべてやったんですね。
「どんな仕事の人でもプロって、『自分のやり方』が正しいって思い込んじゃうから・・・」
「はい。痛感しました」
「そうね。此処にいる全員は『初心者の知識』がなかったくらいだもんね~」
あ・・・。アンジーさんがアクアとマリン以外の全員が隠している『心の傷』を抉ってる。
「そうそう。『戦闘ですら初心者以下の頭でっかち』だったものね~」
あーあ。
・・・・・・シシィさんが、トドメを刺しちゃった。
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