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第三章
第63話
しおりを挟む「連絡取れないから心配だけど・・・。ポンタくんから薬草や虫草の依頼来てないかなー?大丈夫かなー?」
「今は仕方がないわ」
「でも・・・。イジワル治療師がいるでしょ?」
「アラ?知らなかった?あの人は『王都治療院』の所属だから、腹黒仲間と仲良く罰を受けているわ」
「正確には『けっこう悪い人だから飛ばされたのに態度を改めなかったから一緒に責任を背負わされた』だけどね」
町の治療院で、他の治療師たちと仲良くしていれば、「今は王都治療院と関係ない」と庇ってもらえたでしょう。それなのに、治療師仲間たちに歩み寄らず、冒険者ギルドに限らず彼方此方で敵を作っていたため、守備隊や警備兵が乗り込んで来た時に「いま私はこの治療院所属だから」と言って治療師たちに救いを求めたそうです。ですが、それまで見下していた治療師たちから「仕方ないですよね。ご自身は『この治療院があまりにも不甲斐ないから、王都治療院で優秀な私が来てやった』って仰っていました」と切り捨てられたそうです。
他にも王都治療院から派遣された治療師たちがその治療院にはいたそうだけど、その人たちは皆から庇われたため連行されなかったそうです。
「それは・・・自業自得ですね」
「自業自得、よね」
「自業自得だよな」
「・・・それ以外に何かあるかしら?」
「フィシス。・・・『身から出た錆』」
エリーさんの言葉に全員が納得して頷きました。
三日間・・・『光の槍』が落ちた日。虫草を渡した日。そして『今後のこと』を話し合った日。
あれから私は、テントの中で『完全待機』しています。
「エリーが『虫草の所有者』だと思われているから、二度と『あんなこと』は起きないと思う。でも安全のためにテントから出ないで」
「虫草は足りそうですか?」
「・・・分からないわね」
「・・・送れません。だから追加で」
「チョイ待ったー!」
「エアちゃん、ストーップ!」
アレ?虫草を先渡ししようとしたら、皆さんからすごい形相で止められてしまいました。
「エアちゃん・・・。エリーに何本渡すつもりだったの?」
「五万本です」
「エアさん。以前・・・此処に一万本出した時にどれだけあったか覚えていますか?」
・・・?たしか、『高さ1.5メートル位のお山が二つ』になっていたような・・・?
「エアさん。一万本でその多さですよ。五万本になったら、どれだけの量になるか分かりますか?」
今日はフィシスさんたちとキッカさん。私。たしかに今は皆でベッドの上に座っているから、ベッドの高さまで『虫草の海』が広がりますね。
「エアちゃん。『だったら一万本ずつ』っていうのはダメよ」
「シシィ。・・・エアちゃん、やろうとしてたみたい」
私の隣に座るミリィさんに気付かれていました。
「大丈夫よ。『小分けで出す』って言ったでしょ?買い取りは一度に一千本が最高よ。基本五百本。先に三千本渡したでしょ?その分もあるから、しばらくは大丈夫よ」
「虫草はそんなに必要ないの?」
「そうでもないわよ。ただ、今は虫の数が減ったから。町の外に作る篝火を増やしたから少なくていいみたい」
「・・・増やしすぎると効かないですよ」
「え?」
「篝火。増やしすぎると効き目がないですよ」
「それはどういうことですか?」
「じゃあ。イメージするために目を閉じてください」
私の言葉に全員が目を閉じてくれました。
「真っ暗な中に灯りがついていたら?」
「近付きたいわね」
シシィさんの言葉に、他の人たちも頷きます。
「では、少し離して灯りがもうひとつ」
「ああ。近付いて安心したいわね」
アンジーさんの言葉に、皆さんも頷きます。
「じゃあ。そこら中に灯りがついたら?」
「・・・眩しすぎて近付く必要がないわね」
皆さんは目を開けて、大きく息を吐き出しました。
「エアさん。『こういうこと』ですね」
「はい。『暗闇に灯りが見える』から効果が大きいのです。そろそろ、お酒や果実の匂いが充満してますし、夜しか効果が出なくなるでしょう」
「分かったわ。このことをブラームスに説明するわ。そして、新しい篝火を立てたら『状態回復』をかけて匂いを消してから使うように言うわ」
「そういえば、町の中でも匂いが籠っていますよね。そのせいで虫が多く入り込んでいるのではないですか?」
「そうね。キッカのいう通りだわ。先に町中の匂いを消す作業をさせたほうがいいわね」
虫草の量は少ないまま。そしてキャンプファイヤーも前と同じく2基に減らす方向で話を進めることになりました。
そして、そのまま10日間は様子見。効果を確認するそうです。
私が話を聞くのはその日になりました。
その間、私の『仕事』は、時々ステータスを確認して、通信機能の確認をすること。時々でもチャットが繋がるため、今度は通話とメールが繋がるかを確認することになりました。ちなみに、テントの中は『別の空間と繋がっている』ため、虫の襲撃真っ只中のルーフォートよりは影響が少ない可能性があるという事で検証するそうです。1日3回。朝・昼・晩にステータスを開いて確認することになっています。
・・・今まで、一度も繋がったことがないですが。
それ以外は特に何もしていません。
プールで運動し、温室の花壇に双葉を見つけ、料理をする。ひと月以上テント内で続けてきた日々です。
そして、今も私はキッチンの作業台で新作メニューを作っています。
広げたラップの上にブタの薄切りを並べて、塩と胡椒をフリフリ。その上に片栗粉を薄く塗してチーズを乗せる。しめじに似たキノコはバラバラにしてエノキみたいなキノコは小房に、椎茸のようなキノコはカサをスライスにして、それらをチーズの上に乗せたら、キノコの上にチーズを乗せて手前から巻き巻き。ラップで巻いたまま置いて馴染ませている間に、ボウルの中に酒・砂糖・しょうゆを入れてかき混ぜておく。フライパンに油を入れて熱したら、巻き終わりを下にして中火で両面に焼き目がつくまで焼いていく。焼けたら、合わせた調味料をかけてバターも入れて煮絡めて『豚肉のきのこチーズ巻き』の完成。
ボウルに大きめの完熟トマトを入れて大雑把に潰す。それから、とり肉のもも肉をフライパンで焼いて塩胡椒で味付けし、潰したトマトとケチャップ、ウスターソースとハーブを入れて、クツクツと煮ると完成したのが『とり肉のトマトソース煮込み』。
他にも、『豚肉のしょうが焼き』はロース肉と薄切りの二種類。『とりの照り焼き』を作ってる途中で、お昼用にとり肉の一部をしょうが焼きのソースで絡めてお皿に乗せたら『チキンソテー・しょうが焼きソースバージョン』が新レシピになりました。同時に『しょうが焼きソース』もレシピ登録。
先日作った炭酸水にレモン果汁を入れたりして『レモンソーダ』。サングリアも、ラッシーと混ぜたら美味しかったし、さらに炭酸水と様々なサングリアを混ぜても美味しかった。実はノンアルコールのサングリアとお酒を混ぜて『各種カクテル』も作ってみた。
・・・この世界、カクテルはなかったんだよね。ジュースも少ないし。
じゃあ、みんなは何を飲んでいるのか。それは紅茶とコーヒー。子どもは緑茶や麦茶。アルコールは日本酒も焼酎もビールも何でもある。ただしカクテルはない。私がこの世界でいつも飲んでいたのはレモンサワーだった。
でも日本にいた頃はカクテルばっかりだったから飲みたかったんだよね。日本では『家飲みなら作っていいよ』だから自分で作ってた。簡単だったし。
これでジュースの種類も増えた。飲めるお酒の種類も増えた。レシピも増えた。
杏仁豆腐を作りたいのに、アーモンドが見つからない。・・・アーモンドエッセンスがないから、作れるのは『ミルクプリン』。
早く他の町へ移動するか王都に戻って、アーモンドを探したい。
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